東京新聞社会部の望月衣塑子さんは2000年入社。2017年から菅官房長官の記者会見で質問するようになった経緯などを、かつて演劇を志していた人の豊かな表現力で語った。
千葉、神奈川の支局勤務を経て4年目に本社社会部勤務となった望月さん。憧れだった東京地検特捜部担当を願い出て、翌2004年には日歯連の闇献金疑惑をスクープし、自民党と医療業界の利権構造を暴く。夜討ち朝駆けで取材する中、記者会見やリークは当局に都合のよい事実だけで、徐々に嘘と真実の見分けがつくようになった。
内勤の整理部へ異動となり他社への移籍も考えたが、2007年埼玉支局を経て2009年再び社会部へ。結婚、長女出産。以前のような横一面スクープを求める働き方が出来なくなり、育休後2012年に経済部へ配属されてからは部長の助言で調査報道に切り替えた。
2014年、「武器輸出3原則」が撤廃され、「防衛装備移転3原則」閣議決定された。これで日本という国の在り方が変わるのではないかと危機感を持って記事を書いた。防衛関係企業や防衛官僚から取材を妨害されたが、日本の国防機密が垂れ流されてよいのかと戸惑う防衛企業や研究者などがいることもわかった。
いま米国製の兵器購入と武器輸出が行われ、米軍との一体化が進んでいる。日本は最新鋭の輸送機をサウジ連合軍に売込んでいるが、連合軍によるイエメン紛争で800万人超えの飢餓が発生している。来年度防衛予算は過去最高の5兆1900億円に達し、国会や防衛省内の十分な議論もなく安倍首相と国家安全保障会議の主導で敵基地攻撃能力を持つミサイル研究を予算化し、巡航ミサイル導入も決定した。これは専守防衛に反するのではないか。
森友・加計疑惑も精力的に取材した。佐川理財局長ら官僚は国会で「答弁を控える」を連発し、麻生財務大臣は近畿財務局職員の自殺に対し「不徳の致すところ」と反省のない態度だった。ナンバー2の菅官房長官になら記者会見で質問できると思い2017年6月8日、伊藤詩織さんの準強姦事件で十分な取り調べをしなかった刑事部長の判断と、加計問題で職員が実名告発をした場合の対応を聞いた。前者には「まったく承知していない」、後者には「仮定に答えることは控える。文科省で判断する」と回答。後者について重ねて「仮定ではなく、出所不明だから調べられないと繰り返されている。出所を告発したら調査をするか」と聞くと、先と同じ回答を繰り返した。「きちんとした回答がないので聞いている」との再々質問に対しても同じ回答だった。官房長官はこの会見後、総理執務室へ駆け込み、翌日文書の再調査が決定したが、テレビはこの記者会見での激しいやり取りを報じた。
安倍首相は公文書管理の厳格化を指示したが、翌2018年3月、経産省は政治家などの発言記録は必要ないとし、これは他省庁にも広がっている。本来公文書は国民の財産だ。政権中枢は裸の王様か?
メディアの役割は権力の監視、チェック。「ジャーナリズムとは報じられたくないことを報じることだ。それ以外は広報に過ぎない」とジョージ・オーウェルの言葉を紹介した。