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女性展望カフェ「近代の歪みを気づかせる優しさ―石牟礼道子さん」実川悠太さん(認定NPO法人水俣フォーラム理事長)

講師の実川悠太さんは1972年水俣病患者支援高校生グループに参加。現在は水俣フォーラム理事長を務める。石牟礼さんの書いたものはルポルタージュでもなく聞き書きでもなく、小説だったのだと述べ、『苦海浄土』の一節を実川さんと1人の出席者の朗読によって名文を味わうことから始めた。その中では水俣病患者の茂平やんの言葉で、彼らが海から受けた豊かな恵みが語られる。

 

 我が子の入院先の病院で偶々目にした水俣病患者の姿が、石牟礼さんの脳裏から離れなくなり、ここから彼女の水俣病患者への傾斜が始まる。患者たちの思いを共有できる感覚、書くべき対象の論理が自身の体の中に入っていたと、彼女の生い立ちを辿りながら明らかにしていく。さらに、統治機構も理解できる人だったので、患者の発言機会を作ったことが、水俣病被害を終わりにしなかったのだとも言う。

 

 水俣病患者のチッソへの提訴は1969年、同年『苦海浄土』が刊行された。翌年第1回大宅荘一ノンフィクション賞を辞退したのは、人の不幸のことで自分がほめられることの違和感と、「ノンフィクション」賞だったことだろうかと述べた。後に作家池澤夏樹は個人編集『世界文学全集』に『苦海浄土』3部作を選んだ。

 

 

 今、私たちが幸せや自分の存在について考えるとき、富の結果としての幸福ではなく、日常のささやかなディテールに気づかざるを得ない。石牟礼さんの感性はそれを気づかせてくれる、まさに「世界文学」なのだと結んだ。