英国の女性参政権100周年の今年、当財団は「議会制民主主義、福祉、女性参政権100周年」をテーマに、スタディツアーを実施した。参加者は全国11都県から女性地方議員を中心に20人。同国の女性参政権を求めるサフラジェットたちの運動を描いた映画「未来を花束にして」を観たからといって参加した人もあったが、その歴史の上に女性の政治的権利を求めて前進し続ける、国をあげての女性たちの熱気に、私たちは大きな刺激を受けた。
ブレクジットを巡りメイ政権の前途が一層不透明になっていく中、議会閉会前日に面会した労働党女性国会議員は「いつ総選挙があってもおかしくない。任期はまだ4年あるが、今朝影の内閣は対応を話し合った」と緊迫した状況を述べ、ニュースも連日ブレクジット関連を報じていた。 (写真をクリックすると、キャプションあり)
7月18日(水)朝成田空港出発。アムステルダム経由で、同日夕方マンチェスターに到着した。バスから見た市内は各所でクレーン車が林立し、高層ビルの建築が行われていた。
19日(木)、まず、かつて戦闘的婦人参政権運動で名を馳せたエメリン・パンクハーストの一家が住んでいたというパンクハースト・センターを訪問。元数学教師で、ボランティア歴6年のジャネットさんの案内で館内を見学した。当時のニュース映像をまとめたDVDは貴重で、サフラジェットたちを風刺するものもあった。午後は中央図書館の一室で、マンチェスター市議会のパワフルな女性議員(労働党)と面会。弁護士出身と、パキスタン移民2世の2名から活動ぶりを聞き、日本の状況も紹介して交流した。
20日(金)、早朝に専用バスでホテルを発ち、オックスフォードシャー州のウッドストックへ。人口約3000人の小さな町だが、世界遺産ブレナム宮殿のある歴史的な町のタウンホールで、女性地方議員4名らの手づくりのランチでもてなされ、交流した。この後、傍の州博物館でアスコット・マーターの特別展を見た。この地域は昔貧しい農村地帯で、参政権がなかった時代に農婦たちが牢獄に囚われながら平和なストライキを認めさせていったという実話を伝えるものだった。参政権100周年にちなんだ企画で、ケースには、フォーセット協会から借り受けたという参政権運動の旗なども並べて展示されていた。この後、広大な宮殿に移動し、ロンドンのハイドパーク傍のホテルには19時過ぎ到着した。
21日(土)、英国議会前広場に今年2月、女性参政権100年を記念して建てられたミリセント・フォーセットの銅像前で記念写真を撮ってから、英国議会プライベートツアーに。その後、エメリン・パンクハーストの次女シルビアの孫であるヘレン・パンクハーストさんを、市内の自宅(両親宅)に訪ねた。一昨年、映画「未来に花束を」のPRで来日の際、当財団を来館された縁で今回招待を受けることとなった。母上にあいさつ後、2月に刊行されたばかりの著書『DEEDS NOT WORDS』(言葉より行動を)に基づいた話は、さながら特別集中ゼミナールで、両国の女性の過去と現在に向き合う、あっという間の2時間だった。
22日(日)、保阪正康氏の著書でその存在を知った帝国戦争博物館を見学。展示されている品々から戦争のありのままを見て、後は自分で考えることだという言葉を思い出しながら、できる限り目に焼き付けて館を後にした。修学旅行の子どもたちや観光客で賑わう大英博物館では、限られた時間、各自思い思いに歴史を探索してからアフタヌーンティに集合。早目の夕食後、ホテルへ戻り、『サフラジェット 英国女性参政権運動の肖像とシルビア・パンクハースト』(2017年、大月書店)の著者で、ヨーク市に永住の中村久司さんからレクチャーを受けた。シルビアの信念と活動への深い理解と敬愛の念を感じさせる話は、フォーセット像をめぐるエピソードを含め、過去から現代へ、そしてイギリスから日本へと縦横無尽に広がり、興味深かった。
23日(月)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス構内のウィメンズ・ライブラリー(旧フォーセット・ライブラリー)の案内は、学芸員のジリアン・マーフィーさん。フォーセットらの女性参政権協会全国同盟(NUWSS)、パンクハーストらの女性参政権協会全国連合(WSPU)、そこから分裂した女性自由連盟(WFL)の歴史をケースの展示品を指しながら説明後、別室では当時のバッジや手紙、絵葉書などの生資料を直に机に広げて見せてもらった。競馬場で国王の馬に跳ねられて亡くなったエミリー・デイビソンの所持品を警察が作成したリストや、帰りの列車切符ほか、フィルムに包まれてはいたが、100年前の現物を手に取って見る幸運に感激した。
この後、英国議会を再訪し、ウェストミンスターホールの一角に設けられた特設展「VOTE & VOICE」(~今年10月6日まで)を見学。1824年に描かれたという女性の議会傍聴の絵は、天井近い壁から首だけ出して議場を見下ろす様子を伝えるもので、女性たちが目にしたのは男性議員のつま先と、声だけであり、さながら鳥かごのようだったと説明されていた。現職女性議員のビデオメッセージのコーナーでは、女性議員を増やすために「立候補して、と呼びかける」キャンペーンをしているという声も聞かれた。引続き、面談室で、マンチェスター選出の労働党女性議員ケイト・グリーンさん(2016年まで影の内閣で女性平等担当相)に会い、この模様は某紙ロンドン支局記者が取材した。この後、グリーンさんの案内で、閉会前日の貴族院を傍聴した。
24日(火)、最終日は、高齢者や身障者を無償で介護している人々を支援して50年の実績があるケアラーズUKの政策担当者エミリー・ホルツハイゼンさん、面会がかなわなかった孤独大臣の代わりに政府スタッフのロナ・デミングさん、またロンドンで40年以上もDV被害に遭った女性や子どもの支援を続けてきたソレイス女性支援の資金集め担当者ジェシー・ゲインさんらと面会し、最後は自治体国際化協会ロンドン事務所長の黒野嘉之さんから英国の政治・社会情勢などと国民保健サービス(NHS)の現状と課題についてブリーフィングを受けた。
国会・政府関係者・NGOとの面会は英国到着後に人が入れ替わるなどの微調整はあったが、通訳兼コーディネーターのヘレン・パーカーさんはじめ、両国の多くの方の協力により予定のスケジュールをすべてこなし、25日(水)朝ロンドンを発ち、翌26日(木)朝、一同無事帰国した。駆け足だったが、見て聞いて終わりではなく、それぞれに自問し、行動に移す課題を得た旅となった。
注:記念写真で掲げている「Women’s Suffrage is the Key.」は、山口理事長の提案で用意したもので、市川房枝の言葉「婦選は鍵なり」を英国に紹介した。「DEEDS NOT WORDS.」も、相通じるパンクハーストの言葉として一緒に掲げた。
参加者のうち1名は国会議員で、延長国会のためロンドンから合流し、視察を終えて30日に帰国した。参加者による報告書は10月中旬に発行予定。