講師の川崎哲さんは核兵器廃絶国際キャンペーンICAN(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons)国際運営委員、ピースボート共同代表。2009年~10年、「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」でNGOアドバイザーを務めた。
ICANは核兵器禁止条約採択に対する貢献により、2017年ノーベル平和賞を受賞した。100カ国以上500団体が参加しており、日本のNGOピースボートはその国際運営団体執行部10団体のうちの1団体でもある。
核兵器禁止条約は2017年7月、国連交渉会議で国連加盟国の3分の2に近い122カ国が賛成して採択されたが、核保有国(米・ロ・英・仏・中)は会議に欠席、日本などアメリカの同盟国やNATOの加盟国20数カ国、韓国、オーストラリアは拒否した。
この条約に対するICANの貢献とは何か。核兵器の法的禁止への流れは、2010年4月の赤十字国際委員会の声明によって始まった。ICANは多くの国々に非人道性に関する国際会議への参加を要請し、各国代表に会議での発言を働きかけた。核兵器の非人道性や禁止しようという議論に至る流れは、我々の側面支援と激励によって各国政府が前に進めてきたと述べた。
続いてこの条約の条文を詳細に解説。先ず前文で核兵器を「非人道的兵器」とみなすことが謳われる。第1条は全面的に核兵器の使用を禁止する。「全面的に」とは作ること、持つこと、使うこと全てを言い、自国が直接作らなくとも他国が作る、持つ、使うことに対して「援助、奨励、勧誘」することも禁止する。以下、廃棄に関する条項、被害者援助等が続く。被害者援助は国際的義務であり被害者の人権や救済について定められ、これが核兵器禁止条約の基本的性格であり、人道、人権の条約だと言われる所以がここにある。ピースボートの船で日本の被爆者が世界の国々を回り被爆の実態を訴えてきたが、米・英・仏の核実験の被害を受けた人など、世界には様々な核の被害者がいる。
核兵器は禁止されたが、廃絶には繋がらないのではないかという批判や対立する声の中に、核兵器禁止条約は核保有国との対立を深めて、すでにある核兵器不拡散条約(NPT、1973年3月発効)を損ねるのではないかという声があるが、NPTは核兵器禁止条約と対立するものではなく補強するものだとも言う。先般トランプ米大統領が離脱を表明した中距離核戦力全廃条約(INF)は1987年米ソ間で結ばれた条約であり、冷戦終結後核兵器が減った時期があったが、2000年代に入ってからは減少が緩慢になっている。核保有国がきちんと役割を果たして来なかったからこそ、新しい条約が必要になったのだとする。
多くの時間を割いて語ったのは核抑止力と安全保障である。核抑止力とは核の使用を前提とした政策であり、こちらが核兵器を使うぞという姿勢を示すことによって、相手が何かすることを思いとどまらせる、つまり相手が「抑止」される。これが核抑止力の理論だと平易な言葉で解説し、核抑止力が安全保障に不可欠だと言う人たちに2つの問いを投げかけたいと言う。「核兵器を本当に使用する気なんですか?」。本当は使用しないのだと答える人たちに「本当に使用しないと言いきれますか?」と。核がある限り偶発的な発射の危険性は常にあるのだと断言した。
安全保障とは国の平和を守る必要があるという意味であるならば、目的は戦争を防ぐことである。核兵器は戦争を防いできたのか?否、戦争の危機を作ってきた。全人類の破滅を招く核兵器を使うという方法によってしか平和と安全を守れないのか。「核兵器の終わりなのか、私たちの終わりなのか」というICANのメッセージはこのことを問うている。
これからできること。若い人たちにはスマホのハッシュタグに「ICAN」を。ツイッターで意見表明を。核廃絶に関する投稿や動画があったら広めてほしい。市民運動では被爆者国際署名への参加を呼びかけ、ICANの「おりづるプロジェクト」を紹介した。
日本では安倍首相も河野外相も「我が国にとって核抑止力は安全保障上不可欠だ」と答弁している。日米安保条約があるから、核兵器禁止条約に参加できないということはない。安保条約には日米間の安全保障を書いてあるだけで、核兵器には触れていない。日本は核兵器に関わることや援助行為はできないと通告すればいいことなのだと、地雷禁止条約に際しての日本の対応を例に挙げて述べた。
核兵器禁止条約の批准国は現在19カ国で、1年後くらいには発効に必要な50カ国に達して、早ければ2019年末ころには発効するだろう。発効すれば実定国際法になり様々な効力を持つ。核兵器が禁止される時代は来ると思うと力強く語った。