ノルウェーのオスロで行われたノーベル平和賞授賞式の翌週、同賞を受賞したコンゴの婦人科医師デニム・ムクウェゲ氏の活動を追ったドキュメンタリー映画「女を修理する男」の上映会を行った。
映画は、20年以上に及ぶツチ族とフチ族の民族紛争や豊かな鉱物資源獲得をめぐるコンゴ民主共和国の紛争下、組織的に繰り返されてきた少女や女性への性暴力=性的テロリズムの実態と、その治療に生命の危険を冒して献身的に取り組んできたムクウェゲ医師の活動を追う。これまで4万人以上の被害女性を治療した。治療後は女性たちが現実に向き合い、尊厳と生きる勇気、自信を取り戻すようにカウンセリングをし、「父親」のようだと慕われている。中には、治療の施しようのないほど壊された性器を内視鏡で写し出して「救えない」と悲痛な声を上げる場面もあり、深い憤りを伝える。
ムクウェゲ医師は雄弁でもあり、国連本部をはじめ世界各地で、肉体的にも精神的にも女性を破壊する戦争の武器としての兵器=レイプを無くし、女性の人権を尊重すべきと訴え続けてきた。国内でも、レイプの背景にある鉱物資源略奪の問題や、加害者を「不処罰」としてきた司法の問題を告発する。女性たちが声を上げ、夫や父親に団結を求める姿も力強く描かれている。
上映後、米川正子氏のトーク「コンゴ東部における性的テロと“紛争”の実態」に移った。コンゴやルワンダで国連難民高等弁務官事務所職員として働いた経験のある米川氏は3年前、この映画を日本で上映できるように奔走。2年前にはムクウェゲ医師を日本に招き、今回オスロの授賞式に合わせて同地で開催されたコンゴの人々の祝賀会にも出席したといい、映画の背景を詳述した。
ムクウェゲ医師が初めて使った言葉だという「性的テロリズム」は、加害者の性的欲求を満たすためだけでなく、女性や地域を経済的、政治的理由によって組織的に支配するために行われ、また銃でなく体を武器にするので安上がりだと指摘。木の枝などを性器に挿入し、集団レイプの後、膣を撃つこともある。レイプにより被害者は汚名を着せられ、恐怖心が植えつけられ、家族とコミュニティは弱体化する。男性も男性によってレイプされ、女性以上に弱体化させられた男性は従順な労働者として厳しい鉱山での強制労働につかされる。性器の破壊は人口減少をもたらし、結果地域の弱体化は住民と土地を支配する者にとって都合がよい。
この地域の“紛争”は、民族対立によるものというよりも経済要因が大きい。軍隊・武装グループによる天然資源の支配競争を、外部にわかりにくくするための茶番劇だと指摘。
日本との関係についても言及した。スマホなどに使われている鉱物のコルタンはコンゴの紛争地域産の可能性が高く、消費は紛争助長につながる。また紛争地域への人道支援は、国家間の交渉で決めるので、支援物資がブラックマーケットに流れ、新たに武器購入の資金となる可能性がある。日本は国際刑事裁判所に資金を拠出し、裁判官も送っている国として、コンゴの性暴力加害者が誰一人責任を問われていない実態を認識すべきと訴えた。(久)