鹿嶋敬さんは日本経済新聞社編集局次長兼文化部長、編集委員、論説委員等を経て、2005年実践女子大学人間社会学部教授。05年9月から17年3月まで男女共同参画会議議員。第4次男女共同参画基本計画・計画策定専門調査会会長、国の参画行政を監視する監視専門調査会会長等を歴任した。15年から女性労働協会会長を務める。
最初に男女雇用機会均等法(均等法、1985年成立)制定前後から第4次基本計画の策定までの歴史的意味を辿った。均等法は勤労婦人福祉法を改正したものであったため、福祉法であり、「職業生活と家庭生活の調和」は女性のみに規定されていた。即ち女性は子育てすることを前提として均等法はできた。男性優位の雇用管理ができなくなって登場したのが、コース別雇用管理であった。いわゆる総合職、一般職、専門職というコース分けであるが、「運用によっては、コース別に名を借りた男女別雇用管理に転嫁する可能性を併せ持つ」(1990年版『婦人労働の実情』)と指摘されていた。
第2次計画(2006~10年度)における激しいジェンダーをめぐる攻防では、ジェンダーの定義として「社会的性別」を採用。社会的性別(ジェンダー)に基づく差別や、固定的役割分担・偏見に敏感な視点のわかりやすい表現として、「社会的性別(ジェンダー)の視点」に落ち着いた。これは今、「男女共同参画の視点」と言われている。
第3次計画(2011~15年度)は民主党政権時代が中心だったが、鹿嶋さんの報告に対して、仙谷由人官房長官(当時)が「あなたの報告は生ぬるい。もっとエッジを利かせろ」と指摘され、鹿嶋さんが「それであればクオータ制でエッジを利かせる」と応じたことを披露し、第3次計画に初めて「クオータ制の導入などを検討するよう要請する」と記述したという。
男性中心型労働慣行等の変革が初めて議論されたのが、第4次計画(2016~20年度)である。長時間勤務や転勤が当然とされている男性中心の働き方等を前提とする労働慣行を見直さない限り、育児・介護等と両立しつつ、能力を発揮して働きたい女性が思うように働けない。長時間労働の削減等の働き方改革、家事・育児・介護等に男性が参画可能となるための環境整備によって、男女間格差の是正、自らの意思が尊重される社会づくりを目指すとした。「自らの意思」が大事だと鹿嶋さんは強調する。子育てに専念したい女性も、十分に働いて自分の力を発揮したい女性も、女性は何歳になったらこうすべきだなど、世の中の一般的な常識に捉われず、「自らの意思」を主張してほしいと。
果たして男女共同参画は進んだのか。第1次から第4次基本計画まで、男女共同参画の普及啓発、役に立つ男女共同参画、「自らの意思」に基づく個性と能力の発揮を議論してきた。女性社員が管理職に魅力を感じない背景にあるのは、固定的性別役割分担意識の影響が大きい。第5回全国家庭動向調査(2014年)によれば、家事・育児の総量を100とした場合の男女の参画割合は、家事は妻85、夫15、育児は妻80、夫20である。この固定的性別役割分担意識を解消しないかぎり、女性の活躍の仕方はこれまでと変わらない。
女性活躍推進に関する政府の思惑は、労働力不足対策としての経済政策である。政府は「女性が輝く社会の実現」として経済政策の重要な柱とした。しかし、男女共同参画ビジョン(1996年)では男女共同参画は「人権尊重の理念を社会に深く根づかせ、真の男女平等の達成を目指すもの」と人権政策として徹底することを謳う。今、女性活躍推進と男女共同参画の混同と混乱があるが、女性活躍推進は男女共同参画社会の形成というゴールへのプロセスなのだと述べた。(や)