永井潤子さんは2000年4月から2008年までNHK「ラジオ深夜便」ワールドネットワークのベルリン・リポーターを務め、現在はmidori1kwh.deでドイツからの情報を発信する在独50年のジャーナリスト。ナチスに略奪されたグスタフ・クリムトの「黄金のアデーレ」をめぐり、オーストリア国家を訴え、絵を取り戻した物語の翻訳本『奪われたクリムト―マリアが「黄金のアデーレ」を取り戻すまで』(梨の木舎)を2019年3月に出版した。
第一次世界大戦の敗北により、ドイツでは1918年11月12日、社会民主党臨時政権が女性参政権を実現。翌1919年1月19日、ワイマール共和国最初の国民議会選挙が実施され、ドイツで初めて女性が選挙に参加した。この選挙で女性は37人当選し、マリー・ユハッツが女性議員として議会で最初の演説を行った。2018年11月から2019年にかけて「女性参政権100年」を様々な人が祝っている。
2018年11月12日、ベルリンの歴史博物館で行われたドイツの女性参政権100年を祝う式典でメルケル首相が挨拶し、その中で「ツバメが1羽飛んできたからといって、夏が来たことにはなりません。私が首相だからといって男女平等が実現したわけではありません。社会の各分野で完全な男女平等を実現するべきですが、そのためにさらに100年待つようなことがあってはなりません」という発言が印象に残ったという。式典には女性初の連邦議会議長となったリタ・ジュースムート、メクレンブルク・フォアポンメルン州首相のマヌエラ・シュヴェージッヒ、連邦家庭高齢者女性青年相のフランツィスカ・ギファイといったドイツを代表する新旧トップの女性政治家たちをはじめ、キリスト教社会民主両同盟、社会民主党、緑の党、左翼党などの議員が超党派で集まった。
2019年1月31日、政治的に完全な男女平等を目指すパリテート法がブランデンブルク州(同州首相は社会民主党であり、社会民主党、緑の党、左翼党の3党が多数を占める)で採択され、2020年6月に効力を生じる。パリテート法は連邦憲法に違反すると主張する者も多く、連邦憲法裁判所に訴えられる動きがある。ドイツ統一後、連邦議会の女性議員が超党派で運動し、連邦基本法第3条第2項「男性と女性は同権である」に「国家は事実上の男女平等を目指し、存在する不利益を取り除くため努力する」との文言を追加し、国は男女平等を実現するために努力しなければならないことを義務づけた。パリテート法賛成派はこれが連邦基本法に見合っているとし、反対派は連邦基本法第21条で認められている政党の選挙での自由に違反すると主張。連邦憲法裁判所の判断は今後、ドイツの女性たちの運動に影響があると指摘する。
メルケル首相が2015年、押し寄せる難民に寛大な決定をしたことに対し、特に旧東ドイツで難民反対の党が勢力を伸ばした。2018年10月29日、メルケル首相は18年間務めたキリスト教民主同盟の党首を辞任することを宣言し、同年12月7日の党大会で党首として最後の演説を行い、連邦首相の2021年任期満了後は全ての政治活動から退くことを発表。政治舞台から消えることを自ら宣言したことが好評を得て、支持率が増えた。後任の新党首にはザールラント州首相のアネグレート・クランプ=カレンバウアーが選ばれた。
各国で反欧州主義の政党の躍進が懸念される欧州議会選挙の結果によってEUの運命が決まり、ドイツの政治も影響を受ける。現在、ヨーロッパではポピュリズム政党が台頭し、ドイツでも「ドイツのための選択肢」の選挙用ポスターに差別的表現が使用された例を挙げ、右翼政党の勢いが増していることに懸念を示した。しかし右翼のデモに対し、その倍以上の反対のデモが起きていることは希望であると語った。(東)