基調講演「原発ゼロで日本経済は再生する」吉原毅氏(城南信用金庫顧問)
基調講演の吉原毅さんは、現在、城南信用金庫顧問、全国ゼロ・自然エネルギー推進連盟会長。2011年東日本大震災を契機に同金庫理事長だった吉原さんは「原発に頼らない安心できる社会」の実現をめざし、省電力や代替エネルギーの利用開発に取り組むことを宣言した。それはなぜか。信用金庫のルーツである協同組合の歴史に遡る。1844年イギリスで世界初の協同組合が誕生、当時産業革命の進行で貧富の差が拡大し社会が混乱、互いに助け合い、皆が安定した生活を営める理想の社会を作ろうと社会運動が起こる。それが世界に広まり、日本では1900年産業組合法が成立、1902年城南信用金庫の前身がスタートした。
同金庫ではこれまで社会貢献をめざす企業として地域でさまざまな活動に取り組んできた。地域の企業が得た利益を地域内に再投資して地域活性化をはかるということで、再生エネ電力業者への融資を推し進めている。日本の金融機関としては初めてRE100〔Renewable Energy(=再エネ)を導入する企業の国際的連合体〕に加入。世界では風力・太陽光発電が急成長し、再生エネルギーの発電コストが急落している。日本の湘南電力や千葉エコ・エネルギー、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)や既存ダムの有効活用をあげ、経済発展を伴う自然エネルギーの可能性とその展望を打ち出した。
シンポジウム「原発立地自治体の課題」
◆パネリスト: 恵利いつ氏(茨城県東海村議会議員)・池田千賀子氏(新潟県議会議員)・伊藤実氏(浜岡原発を考える会代表)
◆コーディネーター兼コメンテーター: 飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)
午後のシンポジウムで最初のパネリスト、恵利いつさんは2008年茨城県東海村議会議員に当選し現在3期目。地元に原発があることについて、①賛成・反対の対立構造が生まれる、②原発や原子力関連事業への反対意見が言いにくい、③地場産業が育たない、企業誘致も難しい、④原発マネーに(無意識のうちに)頼る住民意識、と問題点をあげる。同村の人口はおよそ3分の2が原子力関連・日立製作所関連であり、議会でも再稼働賛成派議員が多数を占める。
公然と反対しにくい環境で、反対住民は請願・デモ・イベント開催などをし、議員は住民運動に協力、議会で発言、住民意識の把握にも努めている。東海第2原発再稼働について世論調査によると、2017年隣接の那珂市では「再稼働反対・どちらかといえば反対」が65%以上あり、2019年原発立地4市村の「再稼働同意判断アンケート」では、住民投票を選んだ人が最多の37.1%、2位は県民投票24.3%、最少は首長判断で5%に過ぎなかった。
2番目のパネリスト、池田千賀子さんは2003年新潟県柏崎市議会議員選挙で初当選、現在県議2期目。「原発立地自治体のまちづくりの難しさ」と題して、まず柏崎刈羽原発の概要、誘致と稼働・停止の経過を辿った。現新潟県知事は原発事故に関する検証委員会の検証結果が示されない限り、再稼働の議論を始めることはできないとし、総括委員長は次の知事選までに最終報告をだす予定という。県内の他地域に比べ、原発立地が柏崎市民の所得や自治体財政に大きなプラス影響を与えていないことを資料で明らかにした。だが、いまだに再稼働を求める市民・村民が存在し、「原発ではない次の道」を模索する動きが生まれにくいと述べた。
2人のパネリストからは、原発立地自治体の議員として困難さを語りながらも、脱原発を支持するような住民調査や資料が紹介された。
3番目のパネリスト、伊藤実さんは静岡県御前崎市(浜岡原発の立地)に在住、「浜岡原発を考える会」代表。浜岡は東海地震発生が想定される地域にあり、1995年阪神大震災を機に原発の危険性を学び、永久停止を訴えて運動を24年間続けている。御前崎市には女性議員は今まで1人もいたことがなく、原発反対派議員は1人のみ。原発設置は国策として進められ、中部電力は反対する人の地縁血縁関係を調べて圧力をかけた。原発反対運動は全国各地の市民たちから支援を受け、電力会社社員や原発下請け社員とも敵対せずに付き合い、継続してきている。
3.11以後、原発の「安全神話」は崩壊。浜岡原発は全機停止、隣市牧之原市議会による浜岡原発永久停止宣言、UPZ自治体の市民運動、マスコミ取材もあり、原発の話がタブーではなくなった。現在、1、2号機の解体作業が始まり、地元雇用が生まれている。最後に、代替エネルギーとしてメガソーラー(静岡県は日照時間が長い)・風力(遠州灘は風が強い)・バイオマスと揚水発電をあげた。
コーディネーター兼コメンテーターの飯田哲也さんは、環境エネルギー政策研究所所長。飯田さんは「原発は安全でクリーン」「原発で地域が豊かになる」は虚言とし、放射性廃棄物処理・処分の問題についても指摘、それを受けて率直な意見も交わされた。
この1日セミナーを通して、原発立地自治体の問題が出され、それに対する脱原発の動き、再生可能エネルギーの現状と将来の現実的な可能性が提示された。(幸)