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2019連続講座④ 高齢化社会と詐欺・悪質商法被害について 講師:宇都宮健児さん(弁護士)

講師の宇都宮健児さんは弁護士で、地下鉄サリン事件被害対策弁護団団長、年越し派遣村名誉村長、日本弁護士連合会会長などを歴任。現在、全国ヤミ金融・悪質金融対策会議代表幹事、反貧困ネットワーク代表世話人などを務める。

 

はじめに高齢化社会の進行状況を概観し、続いて振り込め詐欺および利殖商法・出資金詐欺商法等の被害状況や手口と対処法を具体的に解説した。

2018年版「高齢化社会白書」によると、65歳以上の人口は1950年総人口の5%だったが、2017年27.7%に達している。総人口が減少する中で65歳以上の人口は増加傾向が続き、36年には33.3%で3人に1人が65歳以上になるとも予測されている。高齢者が狙われる背景には、世帯の形が同居から夫婦のみ或いは1人暮らしの単独世帯が増えたことの影響が考えられ、夫婦のみと単独世帯を合わせると半数を超えている。

 

オレオレ詐欺、架空詐欺、融資保証金詐欺、医療費・税金などの還付金詐欺等の「特殊詐欺」の被害状況は、2018年16,433件(前年比-1,719件)、356億8000万円(前年比-38億円)で、その中でも還付金詐欺が特に増加している。地域別にみると41道府県では減少したが首都圏では大幅に増加している。高齢者の被害状況は特殊詐欺全体では12,867件(前年比-32件)、78%を占めており、手口別ではオレオレ詐欺の被害は96.4%、還付金詐欺は84.6%にのぼっている。老後の資金などとして蓄積された高齢者の個人資産が増えており、詐欺のターゲットになっていると考えられる。

ヤミ金融や振り込め詐欺に共通する手口は、電話・はがきなどによる非対面方式であり、名簿・電話(特に携帯電話)・預貯金口座が犯罪を遂行するための重要な道具となっている。「名簿屋」「口座屋」も存在し、被害を受けた人のリストが「かもリスト」として売買されている可能性もある。

 

では、どのように対処したらよいのか。振り込め詐欺については、①あわてて指定口座に送金したり、現金を手渡したりせず、1度電話を切り子どもや孫と連絡をとり、家族や周囲の人と相談すること。②警察官や弁護士を名乗る場合は警察署や弁護士会の電話番号を自分で調べて電話し確認すること。③詐欺罪・恐喝罪は未遂であっても警察に被害届を出すこと。④最近は送金先の銀行口座を凍結することができるようになったので、警察などを通じて銀行口座の凍結を要請することが大事であるが、被害者本人が直接銀行に凍結要請することは難しいので弁護士を通すこと。被害金が返還される可能性がある。

 

このほか、金融商品等取引詐欺は実際には価値のない未公開株・社債等の有価証券や外国通貨、架空の有価証券について電話やダイレクトメール等で虚偽の情報を提供し金銭をだまし取るものである。利殖商法・出資金詐欺商法は高利回り・高配当をうたって出資金を集めるものであり、低金利時代を背景にして増加し続けている。紹介者に紹介料を支払うなどマルチ商法的手口が使われるのが最近の特徴である。悪質商法の勧誘はきっぱり断ることが第1である。 

 

宇都宮さんは様々な形の詐欺と手口を丁寧に解説するとともに、警察への苦言を呈した。「検挙にまさる予防なし」という格言があるという。今、検挙されているのは、受け子という末端のみ。犯罪集団を野放しにせず検挙することに力を入れてほしいと。

被害に遭ってしまった場合には決して泣き寝入りをしないこと。家族や周囲との相談だけでなく弁護士会や消費者センターなどのプロに相談することも大切であるとして、当日のレジュメの最後には弁護士会や相談センターのリストも挙げられている。最後に高齢者を孤立させない地域・町づくりをしていくことが重要であると語った。(や)