講師の武川恵子さんは、1981年から2018年まで、37年9か月の国家公務員生活の中で、男女共同参画に関わる部局に4度勤務し、最後は2014年男女共同参画局長として、その3分の1の歳月を男女共同参画行政に取り組まれた。
まず、戦前の女性参政権獲得運動から、最近の諸外国の政治分野のクオータ制導入や日本の候補者男女均等法成立まで、世界の動きと日本の男女共同参画の歩みを概観し、ジェンダーバッシングで思い切った政策がとれない時もあったが、近年は、女性活躍推進法の成立、第4次男女共同参画基本計画の策定、働き方改革、政治分野の男女参画推進法など、女性の進出に順風が吹いたとした。
しかしながら、日本のジェンダーギャップ指数は韓国に抜かれて121位、中でも政治参加は144位と低く、北京会議以降、特に90年以降はクオータ制導入により諸外国は伸びているのに、日本は強硬的対策が取られていない。内閣府「平成30年度諸外国における政治分野への女性の参画に関する調査研究報告書」では、候補者男女均等に向けた取組状況に応じた政党助成金の配分を検討するとされているが、これはねらい目で、各政党の選挙候補者数の男女差により政党助成金を減額する方法で、世界で30か国位が実施している。
大西祥世立命館大学法学部教授が作成した資料によると、経済的エンパワメントに関する取り組みでは、日本の、上場企業における取締役等の女性役員の割合を10%とする目標(罰則規定なし)に対して、諸外国では女性役員を40%登用していないと登記できない、取締役としての報酬を受け取れないなどの例がある。また、家族責任への企業の取り組みを促進する政府によるインセンティブとして、日本では女性活躍推進法に基づく指針等に公共調達で加点されるシステムがあるが、諸外国には様々な家族のケアへの補助金や税制上の優遇などがある。
第1子出産後の妻の就業継続率は40.4%(2005~09年)から53.1%(2010~14年)へと高まり、正規・非正規ともに女性の生産年齢の就業者数は増加している。一方で6歳未満の子供を持つ夫婦の育児・家事時間は夫1:妻5.5と女性の育児・家事負担は変わっておらず、これが解決しないと良くならない。育児休業給付の充実も図られたが、2018年度の育児休業取得率は男性6.16%、女性82.2%と、伸びは悪い。
まとめとして、公共調達での加点評価の拡大、女性役員ゼロ企業へのテコ入れ、男性の家事シェアの促進、4年生大学進学率格差是正、政党助成金によるジェンダークオータの導入、選択的夫婦別氏制度導入、民法の嫡出推定制度の改正、などなど、幅広く、多くの残された課題を列挙された。
話の最後に「『少人数では世界を変えられない』などと思ってはならない」というマーガレット・ミードの言葉を引用し、男女共同参画行政に深く関わり、なお課題が山積する状況を変えなければ、という武川さんから参加者へのエールと受け止めた。(良)