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2020連続講座「親だからできる、家庭内のいのちの教育 ~わが子を性の被害者にも加害者にもさせないために~」 講師:棚木めぐみさん(マザーリース助産院代表助産師)

講師の棚木めぐみさんはマザリース助産院(調布市)の代表助産師で、東京都助産師会理事。いのちの教育委員、性と生(いのち)を語るエデュケーターとして、未就学児、小学生から大人向けまでの性教育を実施している。

 

最近ゼロ歳から始める性教育の話の依頼が増えている。性を正しく科学的に、愛情豊かに伝えるにはどうしたらよいかと常に考えている。以前は性教育は性感染症教育あるいは純潔教育と考えられていたが、性教育は人権教育である。全ての人が虐げられることなく搾取されることなく、性的に尊重して自分らしく生きる権利があるということを、幼時から徹底して教えていく。なぜ幼時からの性教育が必要なのか。「寝た子を起こすのではないか」という声もあるが、今、性に関する情報は溢れていて、すでに「寝ていない」「起きている」状態なのだ。日本はAVなどの規制が諸外国に比べて非常にゆるい。

 

学校における性教育の時間数も、オランダ23時間に対して日本は3時間。日本人にとっては性について話すことはタブーに近い。多くの男性にとって性について話すことは気恥ずかしいことであり、女性は人前で話すことはタブーである。真面目に話すことが極端に少ないことが日本の特徴である。学校教育には期待できないので、家庭内での早い時期からの性教育はわが子を守る予防接種、ワクチンのようなものである。

 

ワクチン① 性について話すときに使われる良い言葉に、「プライベートゾーン」があり、水着ソーンとも言われる。水着で隠れている部分は性器である。「プライベートゾーン」は魂や命を産み育てることと深くつながっている。子どもが1人でトイレに入れるようになったら「プライベートゾーン」のことを伝えよう。将来赤ちゃんを授かるところだから、今から大切にしようと。

 

ワクチン② 「いいタッチと悪いタッチ」とは、他の人の「プライベートゾーン」を触らないこと。人に見せないこと、触らせないこと。性被害はいつ遭うかわからない、交通事故のようなものだ。万が一遭ってしまったことを親が知ったときは、責めないこと。あなたは悪くないと言うこと。スキンシップにはいいものと悪いものがあるということを、繰り返し教えることである。

 

ワクチン③ 「赤ちゃんはどこから?」。子どもからのこの問いに、大人として親として完璧に答えられたら、その家庭の性教育は完了したと言えるほどである。どう答えるか、非常に難しい、永遠のテーマである。妊娠、出産の本は1冊あると便利。正しい知識を一緒に学ばせることができるが、お母さんと2人だけの時に読む本とする。

 

絵本には性器の図解と構造や名称の説明があり、お母さんの生理、卵の有精卵と無精卵の違い、動物の交尾などの説明を通じて、命の始まりを話し、その命がどのように育ち生まれるかを、出産の場面を含めて描いている。一方で、性の話は非常にデリケートな話なので、家庭では食卓などで、保育園や学校、電車の中など公の場所では話さないという話すマナーを教えることも必須である。

 

ワクチン④は「男らしさ 女らしさ」、すなわちジェンダーである。「男らしさ 女らしさ」は何かと9歳の子どもたちに尋ねたとき、男の子は「男は強い」「カッコいい」「女よりえらい」、女の子は「かわいい」「やさしい、きれい」「力が弱い、守ってもらう立場」……。9-10歳の子どもたちがすでにこう思っている。男らしさ、女らしさは人それぞれではないかと話した。

 

思春期の子どもたちにも尋ねたことがある。男性は「男だからどんなに辛くても妻子を養うために仕事をしなければいけない」「デートでは男性が払うべき」「怖がってはだめ、泣いてはだめ」。女性は「女はいつもかわいい恰好をしなくてはいけない」「男にたてついてはいけない」「給料は男性より安くても当然」「働いていても家事育児は女性がやるべき」「女のすし職人などあり得ない」「女からのプロポーズはあり得ない。待っているべき」……。あなたたちの好きなように主張していいのだと伝えている。

 

「男のくせに」「女のくせに」という言葉が自分から出そうになった時は、一度考えてみよう。自分が男である、女であると言う前に、自分がどのようにいることが自然なのか、自分は何が好きか、得意かということを考えることが大切だと、子どもたちに教えていきたい。いろいろな家族がある。母と子、父と子だけの家庭、養子縁組をした家庭、祖父母が親代わりの家庭、そして何年か後には父親だけ2人、母親だけ2人の家庭も出てくるかもしれない。家族にはいろんな形があり、それぞれ違ってもいいのだ。

「あなたが生まれてきてくれてありがとう」「あなたが大好きだよ」と伝えることが、最終的な目的である。

 

当日、棚木さんは『13歳までに伝えたい 女の子の心と体のこと』『オランダの性教育』『あなたが生まれるまで』など10数冊の性教育絵本を持参。中・高校生の年代向けにはスマホやパソコンで見ることができる良識的な性教育のサイトを紹介した。(や)