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市川房枝政治参画フォーラム「コロナ禍、国・自治体はどう動く」

講演「21年度国・自治体の予算について—予算議会を前に・異例の予算編成、財源、財政を考える—

菅原敏夫さん(公益財団法人地方自治総合研究所委嘱研究員

 

 この時期の政治参画フォーラム(財政)には地方自治総合研究所の菅原敏夫氏に登壇願うことが多い。国の予算も発表されたばかり、国会の予算委員会も始まらず、自治体予算案はこれから、という時期に議会予算審議の着眼点を聞く。今年はたまたまフォーラム開催日の前日に東京都、横浜市、さいたま市の当初予算の記者発表があった。講座では当日急いでこの3自治体の予算案概要が配布された。そこには驚愕の当初予算案が。東京都は4000億円に上る歳入欠損をどうやって埋めるのか。例年の講座ながら今回は異例の予算編成。国−自治体の予算をめぐる財政を明らかにされた。


 国の21年度予算案の特徴は3つ。

(1)21年度当初予算とほぼ同時に閣議決定された巨額の20年度第三次補正予算と切れ目なくつながる「15ヶ月予算」。21年度予算で議論すべき主要項目がすでに20年度補正予算に取り込まれており、当初予算審議が空洞化してしまう。補正で、Go toトラベル1兆円が維持されている。

(2)「10兆円予備費」。20年度が予備費10兆円。コロナ対策だが、使い残しと積み増しで、第三次補正で5兆円に再編。21当初に新たに5兆円。合わせるとまた10兆円予備費。どういう対策が必要かわからない部分があるとはいえ、使い途の検証は甘くなる。

(3)「国債大増発」。21年度予算の財源の41%は国の借金・国債。税収は54%分のみ。大丈夫だろうか。ところが専門家の意見は、全然大丈夫という人と、コロナが収まったら早速歳出削減とできれば増税を、真っ二つだったとの事だった。


 自治体予算はどうなのか。

(1)(2月末時点で調べ直してみたら)19府県が「過去最大の予算規模」。20ある政令都市のうちの13政令市も過去最大の予算規模だったとう。緊縮財政は免れたが、今後どのような財政運営するのかが課題だ。

(2)「新しい借金制度」。国債はかなり自由に発行できるし、日銀が買い支えてくれる。しかし自治体にはそれがない。仕方がないので、臨時財政対策債でも足りない分、自治体の資金繰り支援の名目で、「特別減収対策債・企業債」の発行、政府資金・金融機構資金の融通を始めた。でも、これは一息ついただけで、政府にお金を借りる算段で、いずれ返さなければならない訳であるので慎重な対応が必要であり、こういうときに総務省が頼りにならない。
(3)「公共事業」が急増している。そればかりではなくて、公共事業向け借金を増やして、浮いた頭金を足りないところ、他の目的に使おうというのは問題だ。

(4)「財源のあてのない」(超)大型当初予算案なので、中身があるとは思えない。はじめから補正ありき、では話にならない。

議会の予算審議はより丁寧にと話を締めくくられた。(大)


基調講演「自治体におけるコロナ対策―世田谷区の事例を含めて」

保坂展人さん(世田谷区長)

 

 世田谷区は人口92万人(令和3年2月1日現在)、面積は58.05平方キロメートルと大都市並みの規模をもつ区である。区内を5地域に分け、それぞれに総合支所を設置している。

 

◆安心を与えるデータ開示

講演の最初に示された世田谷区の感染状況では、陽性者累計数7,595人の内訳として、入院中、宿泊療養中、自宅療養中、退院等、死亡がきちんと示されている。感染源は家族・同居人が一番多く、次いで飲食店、職場と続く。感染経路が追えるのは4割にとどまる。ここまで区民に様々なダータを開示している自治体は23区の中でも少ない。データの公表は区民に安心を与える。

 

◆社会的検査の意義は大きい

何よりも画期的なことは、感染リスクの高い人が利用する施設でのクラスターを抑止する目的で社会的検査を開始したことである。これまでの保健所の行う検査は、感染したと思われる人とその濃厚接触者に限定されるケースが多かった。世田谷区の行う社会的検査は、

対象者が介護事業所・障害者施設の職員と利用者、児童養護施設・保育園・幼稚園の教師と職員に限られるが、定時的に検査を行うことで無症状を含む感染者を早く見つけ出し、随時検査で検査対象を濃厚接触者以外にも広げることで感染拡大を防ぐことができる。

 

◆保健所の負担を減らすために

社会的検査は委託事業者が実施する。そのフレームは、施設又は区の指定する場所で主に唾液を採取し、民間が検査を行い、検査結果が区・施設・本人へ返送される。陽性者への聞き取りも委託事業者が行い、宿泊療養または入院の連絡は保健福祉政策部や世田谷保健所から行う。保健所だけでなく、民間、保健福祉政策部の力も借りる。

 

◆スクリーニング検査(プール方式)の導入

世田谷区は、かねてより複数の検体を1つの検体にまとめでPCR検査行い、陽性反応を示した検体は、保存している個々の検体を用いPCR検査を行うことで検査数を増やすことを承認するよう国に求めてきた。1月より高齢者施設と障害者施設の通所・訪問事業所で働く職員を対象に、プール方式で都の補助金を活用し検査を行う。本年1月22日、厚生労働省はプール方式を認め、行政検査(費用は国費)の対象とするとした。世田谷区の働きかけは、3月から不特定多数のPCR検査の開始を国に決断させた。

 

◆質問に答え、機能不全に陥りそうな保健所業務については、世田谷区もかつては保健所は区内4か所にあったが現在は1か所になった。5つの総合支所に保健・医療機能を残している。感染対策として20人の職員を応援も入れ80人にした。社会的検査も入れた。入院待機者や自宅療養者にはきちんとホテル療養ができるようにすべきだ。自宅待機には訪問診療やリモート診療で接することもできる。NPOとの連携は42か所で子ども食堂を開催し、フードパントリーとも連携している。NPOは地域に密着した個別支援の働きができると感じた。(和)


講演「どうなってるの?介護保険」 小竹雅子さん

講演「現場からの報告」 小島美里さん

 

市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰の小竹雅子さんが「どうなっているの?介護保険」をテーマに講演した。2000年に始まった介護保険は8度目の改正の時期を迎える。介護の社会化を目指して作られた制度だったが、介護予防重視に舵を切り、地域で支えあう総合支援事業へと変化している。昨年10月に介護保険法施行規則の一部を改正する省令が公布された。これにより、人員基準や定員基準の緩和、生活援助の訪問回数の多い事業者を抽出し、点検する。また、質の高いケアマネジメントが推進され、介護報酬が引き上げられるが、介護保険は、利用しやすい方向に向かっているとは思えない。

 

後半は、「現場からの報告」として、NPO法人暮らしネット・えん代表理事の小島美里さんが講演した。自治体議員が声を上げ、繰り返される制度の見直しにより利用者がサービスを使えず、負担が増えるということがないように、またコロナ禍で感染のリスクがあり、利用が減り経営が厳しい介護の現場を支えられる制度に変えていく。国が言う地域包括ケアの推進は可能なのか?社会全体で考えていかなければならない。(正)

 



【イベント詳細】2021年1月30日市川房枝政治参画フォーラム「コロナ禍、国・自治体はどう動く」

【主催者メッセージ】

未曾有の新型コロナウイルス(COVID-19)に世界は襲われ、終息の見通しは立ちません。経済の停滞から医療崩壊の危機、弱者へのしわ寄せと、コロナ災害は日本社会を様々に直撃しています。国の対

策はなぜ遅いのか。自治体はどう対応したらよいのか。2021年度国・自治体の予算と、世田谷区の

コロナ対策の事例、そして4月から大きく変わる介護保険制度の問題を現場の声を交えて学びます。

日時

2021年1月30日(土)10:00~15:30

会場

婦選会館(東京都渋谷区代々木2-21-11)

講師

▽講演2021年度国・自治体の予算について菅原敏夫氏(公益財団法人地方自治総合研究所委嘱研究員)

▽基調講演自治体におけるコロナ対策―世田谷区の事例を含めて保坂展人氏(東京・世田谷区長)※公務の都合で録画で視聴

▽ 講演どうなってるの?介護保険小竹雅子氏(市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰)

▽講演「現場からの報告」小島美里氏(NPO法人暮らしネット・えん代表理事)

参加費

現職議員12,000円・現職議員以外5,000円(すべて税込価格)

※音声受講(菅原氏・保坂氏・小島氏)1コマ3,000円(送料別)

 資料受講(小竹氏)1,000円(送料別)

定員 30名(要予約、受付先着順)
申し込み方法 フォーム、メール、FAX、電話でお申し込みください。