講師の松本暢子さんは大妻女子大学社会情報学部教授で、専門はハウジング、住宅地の更新と家族の住生活史。著書(共著)に『住まいの100年』『まちづくりの科学』などがある。
①戦後日本の住宅政策の変遷
②家族同居形態の変化と住宅
③人口減少下の住宅事情
④コロナ禍でわかったこと
をポイントに、人々が安心して暮らすための「住宅」のあり
方、「居住する権利」など住宅政策の抱える問題を述べた。
①日本の本格的な住宅政策の取り組みが始まったのは第二次大戦後であり、当時420万戸の住宅が不足していた。1951(昭和26)年公営住宅法により低所得者層向けの公営住宅や中間層向けの公団住宅が建設され、1950年設立の住宅金融公庫は個人向けの住宅融資を開始した。大量供給のための標準設計が示され、食事の場と就寝の場を分ける「食寝分離型」であり、台所を食事ができる広さとしたダイニングキッチンが生まれ、民間の開発でも踏襲された。
②1980年代になると、親子世帯の同居か別居かという家族同居形態の変化や核家族での共働き世帯の増加により、単身、夫婦のみ世帯が増加する。また、量的不足のみを問題として年間100万戸という大量に建設されてきた住宅は、プライバシーの重視や他人に迷惑をかけない自己完結的な住生活を望む質の向上を求めるようになった。
③さらに、人口減少が進むとともに世帯数が減少し、空き家問題が生じた。統計によると空き家率は13.5%(総務省)であるが、これは戸建てに限った数字でありアパートは含まれないこと、空き家の調査が難しいこと等のため、必ずしも正しい数字とは言えず、実際の空き家はさらに多いと思われる。空き家の増加の問題点は、どう使うか、どのように管理するかである。
コロナ禍の中でわかった地域社会での課題は3つ。「居住の保障」、「居住と福祉」、「居住環境の維持保全」である。日本では居住の保障ができていないことは、残念なことである。1990年代から住宅政策は国が主体的に行うのではなく、市区町村の主導でやるべきであるとされ、2006年には住生活基本法が成立した。自治体主導の取り組みとして調布市では、福祉分野と住宅分野の協働により住宅確保要支援者のために居住支援協議会を設け、空き家の斡旋、契約、居住する高齢者等の見守りを実施。世田谷区では空き家等地域貢献活動相談窓口として、空き家オーナー向け相談窓口の設置や、空き家等地域貢献活用モデルの募集等を行っている。国連でも認められているように、居住は人権であり、居住の保障は大事なことなのである。
また、居住と福祉については、地域包括ケアシステムとの連携は大切である。地域包括システムとは市町村が主体となり、地域住民に対する医療・介護・福祉などのサービスを関係者が連携・協力して提供する体制のことである。20年前に、スウェーデンモデルにより医療、介護、生活支援等、高齢者の日常生活圏のあり方を描いたとき、その中心にあったのは「住まい」であった。今、市区町村の仕事としては最も大事なことになっている。
居住環境の維持保全はまだまだ不完全である。高齢者の熱中症などは換気や断熱の問題であるが、衛生的にきちんと暮らしているかどうかを見守る仕組みはない。居住水準を規定しているが、これは住宅を建設するときの基準であり、保障する段階までには至っていないのが現状である。安心して暮らすためには、自治体の方針と主体となる住む人がやらなければならないのである。
住宅問題はなくならない。誰かが不満を持っていればそれも住宅問題なのである。全てを解決することはあり得ないが、多くの人たちが考え取り組んでいくことができればいいと思う。(や)
【イベント詳細】2020連続講座「いま、動き出すために」
講師 |
2021年2月13日(土)13:30~15:30 家族の変化と住宅需要―人口減少期の住宅政策」講師:松本暢子さん(大妻女子大学教授) |
形式 |
オンライン(zoomウェビナー) |
参加費 |
無料 |
定員 | 40名(要予約) |
【講師メッセージ】単身者や夫婦のみの世帯の増加等の家族構造の変化に加え、未婚者や共働きの増加等によるライフスタイルの変化が大きい。近年、これまでに形成してきた住宅ストックと住宅需要(求められている住宅)のミスマッチ状況にある。今、人々が安心して暮らすための器である「住宅」のあり方、「居住する権利」が問われている。そこで、第二次世界大戦後の住宅の大量供給から始まった住宅政策の経緯を踏まえ、人口減少期の現在、住宅政策の抱える問題について考えてみたい。
【プロフィール】大妻女子大学社会情報学部教授。工学博士。日本女子大学卒業、東京都立大学大学院修了。専門は、ハウジング、住宅地の更新と家族の住生活史。著書に『住まいの100年』(共著、ドメス出版)、『まちづくりの科学』(同上、鹿島出版会)他。