今回の衆院選は、女性参政権75周年という節目の年にもかかわらず、女性議員の数が減ってしまったという残念な結果になった。衆議院の女性議員割合が9.9%から9.7%に、47人から45人にと2人減。一方、参議院は過去2回はかなり良く約23%。世界平均の25%に手の届くところまで来ている。女性議員割合が高かったのは2009年民主党政権の時で11.3%と過去最多だったが、その後は10%以下に止まっている。世界的には1980年頃はどの国も5%以下だったが、90年代に入り差が広がり今はさらに広がっている。日本だけが世界から取り残されてしまった。
世界の女性議員比率(IPU 2021年1月)によれば、女性議員が40%を越える国は23カ国で、40%、50%を目指して世界の国々が努力している。30%を超える国は193カ国中51カ国。また女性閣僚も増えている。議員は選挙があって選ばれるが閣僚は任命制であり、大統領制の場合は国会議員から任命するわけではないので、各界で活躍している女性がどんどん任命されている。女性閣僚40%以上が30カ国、30%以上は63カ国ある。アメリカも先進国の中では比較的女性議員が少なく、女性議員の後進国と言われてきたが、バイデン大統領になってからほぼパリテ内閣になっている。日本は議院内閣制なので大統領制のように一気に変わることが難しい。女性閣僚を増やすためには対象となる一定数の女性議員がいなければならず、そのためにも女性国会議員を増やすことが必要だが、日本は女性議員を増やすクオータ制も未導入である。世界の3分の2の国ではクオータ制を取り入れることによって女性議員を増やして来た。
クオータ制は候補者の一定数を、3割、4割、あるいは男女同数という形で割り当てる制度であり、議会におけるジェンダー平等を実現するための手段である。あくまでも手段でありクオータにもいろいろやり方があるので、形だけ導入するのではなく日本の制度の中で成果の出るような形にすることが重要だ。パリテはフランス語で男女同数とか性別均等という意味で、民主主義の原則として男女半々で意思決定に携わらなければ民主主義とは言えないという考え方である。パリテという考え方を日本でも早く浸透していくことによって、民主主義を鍛えなおしていくことが必要である。
2018年に成立した政治分野における男女共同参画推進法、いわゆる候補者均等法の前文には、男女共同参画の民主政治を目指すことが目的と書かれている。男女共同参画の民主政治とは男女が対等に政治に参画すること。基本原則に政党は候補者を擁立するときには数の均等を、男女同数を目指すとも書かれ、理念はパリテがしっかり盛り込まれた内容で議員立法として全会一致で成立した。3年前に成立し2021年6月にさらに強化、改正された。
私たちが目指すパリテの民主政治で一番重要なことは、候補者は男女均等、男女同数を目指すこと、数値目標を掲げること。目指すべきであるのは政党であるが、努力義務であって責務ではない。改正点の1つは候補者選定過程の改善で、もっとオープンにし、いろんな人がアクセスできるようにしていくこと。これが候補者の質を改善するためにも私たちの監視の目を届かせるためにもとても重要な点だ。
さらに今回責任を持っている主体として議会がはっきり書き込まれた。衆議院、参議院、地方議会がそれぞれ責務として3つのこと、環境整備、人材育成、セクハラ・マタハラ防止をやらなければならない。政治倫理条例を作る、相談窓口を設けることも定められているので、議会でどうなっているのか注目し、法律に則ってやるように声を上げてほしい。女性を増やしていくよいツールは与えられたということになる。
今回の選挙で新しい政治参加の可能性が見えて来たかと思う。コロナ禍の中で選挙運動が制限されたが、SNSを通じた投票の呼びかけ、ネット投票運動など、候補者も有権者もアピール力のある展開があった。さらに今回の選挙の大きな特色は、多種多様な団体が候補者や政党にアンケートを出して、争点に政党や候補者はどんな意見を持っているのかを問い、星取表としてSNSで公開したことである。自分が関心のある争点を見比べることができるようになった。これは新しい政治参加の動きだ。どのくらい効果があったのかという課題はあるが、このような市民の投票への関わりはもっと広がっていく必要があり、その意味でよい流れを残した。「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」では候補者均等法、数値目標、比例名簿において男女同数に、上位に女性をなど、具体的な施策を実行しているか等60以上の争点について、各政党の対応を読み比べることができ、私たち市民社会が強くなっていくためのよい教材を提供している。このようなチェックリストをもっと活用して市民力をパワーアップさせていくことが必要だ。他に「ヒューマンライツナウ」、「もっと安全な中絶をアクション」、学生団体「ivote」の調査がある。女性たちや市民団体がいろんな案件を挙げて行くことは重要であり、女性団体相互が尊重していくことも必要だ。
ジェンダーの観点からは選択的夫婦別姓はシンボリックな争点で、各メディアが個々の議員のスタンスを詳細に報じた。選択的夫婦別姓を推進している側の落選運動に、婦選運動以来の姿勢を感じる。かつて婦選運動をやっていた女性たちは、自分たちは投票することはできなかったが、選挙には非常に熱心に関わっていた。婦選に賛成する議員が多く当選し反対議員が落選すると、議会構成が変わることによって婦選がより通りやすくなるだろうと考えたのである。
ジェンダー平等は争点なのかという議論も出ている。野党共闘に対する批判的な様々な言説の中で、野党共闘はジェンダー平等を言い過ぎたから負けた、いや、もっと言わなければならないといろいろな解釈が出ている。それぞれの解釈を支える部分的エビデンスはあるが、確定的なことはないので惑わされずに、データから得られることは限定的なのだということを踏まえて自分なりの解釈をし、それに即して自身の今後の行動を考えることが必要である。日テレの出口調査は対象が投票した人でありサンプル数が少ないので、正しく反映されるわけではないが、この中でジェンダー平等を争点にした人が18歳から19歳で8.3%あり、こんなにいるのかと驚いた。経済や景気、コロナ対策よりもジェンダーを重視したことは驚くべき結果だ。この年代は人口の絶対数としては少ないので、投票という形では声がかき消されてしまう。社会的支援を市民団体の中で考えながら、どのように効果的に政治に声を届けて行くのかということが課題だ。
誰がクオータを支持するのか。なぜ大きな政党が数値目標に反対しているのか。対面主義、個人中心の選挙では女性が見つからないという実態があるので、そこに数値目標を入れても守れず、数値目標を守ろうとすれば今の候補者の選び方を変えなければならない。数値目標を入れない限り今のやり方は変わらず、衆議院で女性候補が増えることは殆どない。私たちの社会を変えていくためには、クオータを入れなくして3割、4割というレベルまではいけないと思う。2020年に行った約7000人以上のモニター調査では、女性75% 男性58%がクオータ制に賛成寄りの意見を持っていた。
政党の差も大きく自民や維新はクオータには慎重である。どこでも男性よりも女性の方がクオータを支持している。政党支持別にみると自民、維新が低く公明党が最も高かった。次は公明党を突破口に検討したい。国会議員のアンケートはNHKが小選挙区の候補者に対して行ったもので、自民党の小選挙区当選者は女性は賛成が多く男性は逆。立憲民主党は男性の反対若干でほとんど賛成。特に女性は賛成。自民党と立憲民主党の態度は対照的である。自民党では落選した人の方がクオータに賛成が多く、クオータに反対している人ほど当選している。このような情報を手掛かりに今後クオータへの支持をどう広げていったらよいかを考える必要があると思う。(や)
【イベント詳細】財団創立59周年記念維持員のつどい
【主催者メッセージ】
コロナ禍、今年は「維持員のつどい」を、オンラインで開催します。
どなたでもお気軽にご参加ください。
日時 | 2021年11月15日(月)14:00~15:45 |
内容 |
◆財団の近況報告 ◆2021年度市川房枝女性の政治参画基金助成対象者発表と基金贈呈 ◆記念講演 「女性参政権75周年を迎えてさらなる飛躍を~婦選運動から候補者均等法まで~」 三浦まり氏(上智大学法学部教授) |
形式 |
オンライン(zoomウェビナー) ※画面に参加者のお名前や顔、声が登場することはありません。 |
参加費 |
無料 |
定員 | 約100名(要予約、受付先着順) |
申し込み方法 |
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