女性は「物」として「消費」され、性交歴や妊娠歴などで分断されやすいが、女性の身体がわいせつなのではなく、見る人の目がわいせつなのだ。多様な性を便宜上、男女に分けてきたに過ぎないにもかかわらず、性指向、性自認、性表現など性の多様性が、女性の中に十分には落とし込まれていない。女性の身体に起こる妊娠、出産、流産、避妊、不妊、中絶、性感染症についての理解も足りない。
国際人口・開発会議の原則(1994年)では、原則1において「あらゆる人」の尊厳と権利をうたいつつ、原則4として、改めて「女性と女児」の普遍的人権を定める。また、世界性の健康学会(World Association for Sexual Health, WAS)による「性の権利宣言」(2000年、改訂2014年)に照らしてみると、女性の医療だけが遅いという日本の問題状況が浮かび上がる。LGBTへの偏見差別、旧式で安全性を欠き、懲罰的ですらあるような中絶方法、他方で避妊法の制限、包括的な性教育の欠如など、挙げればキリがないほどだ。さらに、WASは、他人を犠牲にしない限りでの「性の快楽」宣言(2019年)にまで至っている。男性の快楽が女性の苦痛の上に成り立つなら、それは性加害に他ならない。
「産科暴力」とは、内診は痛くても当然とすること、無駄に頻繁な内診が行われることなどの例がわかりやすいが、そもそも受診する女性を恥ずかしがらせていること自体も含まれる。日本においては、医療の名の下に女性への人権侵害が隠されており、内診室のカーテンが産科暴力の温床となっている。なぜなら、カーテンで仕切ることによって、女性の人格が切り離されて「物」として扱われ、プライバシー侵害や性的・身体的・心理的暴力が顧みられない。日本以外では、内診室のカーテンは珍しいという。
女性性器切除(FGM)は遠い国の話として受け止められがちだが、当たり前のように行われる会陰切開も、第三者が女性の陰部に加える暴力として共通する。帝王切開が多すぎる事実や自宅での出産が制限されること、あるいは、医師や助産師・看護師に質問しにくい状況も、産科暴力を成り立たせている。「ていねいな出産ケア」こそが人間としての尊厳を守る。
日本では低用量ピル(経口避妊薬)がなかなか認可されず、1999年にようやく承認されても、処方前検査が過剰に課せられ、高価で入手しにくい。1980年代に開発された中絶ピルについても、危険性ばかりが強調されてきた。女性の性の健康を守る3種類のピル(経口避妊薬、緊急避妊薬、中絶薬)が利用できない状況は、女性の自律を妨げる。自分の身体のことは自分で決める、そして、生き方が選べるためには、選挙のあり方も見直して政治的に働きかけることも必要になる。(眞)
【イベント詳細】2022連続講座「“政治”を揺り動かす」第2回
講師 |
2022年6月11日(土)13:30〜15:30 「産科暴力と女性の身体権」講師:早乙女智子さん((公財)ルイ・パストゥール医学研究センター主任協力研究員) |
形式 |
オンライン(zoomウェビナー) |
参加費 |
1,100円(税込) |
定員 | 50名(要予約) |
【講師メッセージ】「産科暴力」(Obstetric Violence:OV)とは、病院などの施設内暴力と女性への暴力が合わさったもので、不必要な内診、出産時の同意のない会陰切開、言葉の暴力などです。海外では2011年ごろから改善されてきた産科暴力は日本で見過ごされてきました。医療対女性のような対立構造ではなく、医療を女性の呼びかけで改善していくことができるように、産科暴力とは何か、どうしたらいいのかをご一緒に考えたいと思います。
【プロフィール】1986年筑波大学医学専門学群卒、2019年京都大学博士(人間健康科学)産婦人科専門医。日本性科学会副理事長、性の健康世界学会理事、(一社)性と健康を考える女性専門家の会代表理事、日本性教育協会運営委員、他。