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2022脱原発1日セミナー「気候危機、エネルギー危機、戦争の危機の時代へ 原発ではなく地域からの自然エネルギーこそが回答」

基調講演「原発を巡る政府政策と現状と今後について、併せて 自治体議員が取り組むべきことは何か

飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長)

 福島の原発事故から11年が経過した。事故後の民主党政権が、安倍首相+今井総理秘書官の二人三脚になったことで、原発を巡る不条理や歪みが生じた。国民が惨事にうろたえている時に起きる様々な事象はまさに非科学的、非論理的であり「ショックドクトリン」である。気候変動対策に原発は役に立たないこと、電力不足は原発再稼働でなくても解消できること、世界が再生可能エネルギーに向かう中、なぜ原発に固執するのかなど、内容の濃いお話を伺った。

 

 唯一の被爆国である日本が核兵器禁止条約に調印しないという不条理は最悪である。福島原発事故直後の民主党政権は40年で廃炉を掲げたが、福島の原発は廃炉でなく事故炉の処理であり、40年ではとても終わらない。科学的検証が必要だ。東電を破綻させず1兆円を投入し事実上国有化している。役人の失敗、国会議員、地方議員、原発推進派の人たちの責任は問われていない。しかし、自主避難した人の支援打ち切りや放射能を巡る地域内分断が生じている。原子放射線の影響に関する国連科学委員会は、福島に関する特別報告書で「福島原発による放射線被爆の影響はなかった」としている。元首相ら5人が欧州委員会に送付した書簡の中で、「日本では福島原発の事故で放射線の影響で苦しむ人達がいる」と記述したことに対し、福島県知事、環境大臣、岸田首相は、事実無根のことを書いてはならないと抗議文を出した。環境省の放射線を扱う部署では、「放射線による被爆影響はなかった」が常識になっている。汚染水を処理水と言い変えたが、処理後も汚染されている。含まれるトリチウムについては、石油備蓄タンクなどに入れれば50年持つ置き場もあり、半減期が12年のトリチウムは減衰する。「放射線の影響はない」が前提になっているから、海への放出以外は真面目に検討されていない。  

 汚染土は「30年で県外へ」としているが、受け入れ先はないだろう。再利用を巡っても、原発事故前と事故後では二重基準が存在する。2014年のエネルギー基本計画に「原子力は重要なベースロード」が入り、脱原発は公式文書には入れられなくなり、政策目標に入らなくなった。 

 安倍政権において、国から地方へと原子力容認を拡げてきた。ウクライナ侵攻を火事場泥棒的に利用し、エネルギー危機として原発再稼働を持ち出す人たちがいる。気候変動に原子力をと叫ぶ人たちがいるが、原発自体が気候変動に脆弱であることは、熱波で原発をとめたフランスが示している。世界にある原発は老朽化し、新設は建設コストがとてつもなく高く、経済的に合わなくなっており、さらに完成までに多くの年月を要する。今後は新設より廃炉が急速に多くなる。世界のほとんど研究機関が2050年には太陽光と風力に置き換わるというシナリオを立ち上げている。電力不足を補うため再稼働せよという声も強い。実際の電力需要は太陽光のおかげで夏のピークは下がる。本当のピークは冬。節電や蓄電池でピークの時間をずらせば電力は原発でなくても賄える。

 今、日本では非科学的で、経済的、論理的、倫理的に反することが行なわれている。なぜ原発に固執するのか、日本だけでなく諸外国でも、政治家、官僚 経済界、メディア、大学の先生の鉄の5角形の原子力村がそれぞれにあり、この5角形は強固である。イデオロギーと取り巻く神話がある。

 再エネ電力比率は、1990年に日本9%(水力)、ドイツ、デンマークは3%だった。デンマークは5年後100%になる。ドイツは2000年に再エネ固定価格買い取り制を導入、目標達成が早まり、2035年までに再エネ100%達成を宣言。日本は21位まできたが先行き不透明である。ドイツやデンマークに学ぶべきだ。

 最後に、飯田氏は老子の言葉として、「天下の難事は必ず易きより作(おこ)り、天下の大事は必ず細(ちい)さきより作る。」を紹介し、「未来の世界の普遍的なことにつながる小さなことは、みんなが取り組むと社会や未来は変わる。」と未来を示された。


朗読ライブ「 写真絵本『 私はあいちゃんのランドセル』 福島原発事故の記録」

朗読:菊池和子 氏(作者) 演奏:室井三紀 氏(筑前琵琶奏者)

 朗読ライブでは情景がふつふつと浮かぶ琵琶の音色とともに、原発事故後も福島でそのまま置き去りにされている、愛着ある大切なものを主人公に福島の情景が語られた。婦選会館1階の多目的ホールでは福島が語りかける写真展示もされた。

 

  1. 朗読ライブ「私はあいちゃんのランドセル」15話より8話

    ◆登場する主人公は、浪江町役場前のアーチ、あいちゃんのランドセル、大熊中学校のピアノ、ラブラドールレトリバー犬、トラクター、田んぼ、お祭り(浪江町南津島芸能保存会)、さくら。

    ◆浪江町役場前のアーチは、「僕の体には『原子力 郷土の発展 明るい未来』と書かれている。僕は逃げることはできない。ずーっとここに立っていた。今は体は壊され、文字だけが博物館で眠っている。」アーチ君もどんなに辛い思いをしたことだろう。明るい未来は続かなかった。故郷で一人で過ごす「モノ」たちの独り言は原発がもたらしたものを教えてくれた。

  2. スライドトーク 「写真の背景と行間」
  • 福島原発事故は広島型原発の168倍の放射性物質を放出した。地震から4時間後に政府は「原子力緊急事態宣言」を発令し、現在も解除されていない。放射能被害は小さかったことにされようとしている。原発事故後の対応は、災害救助法の弾力的な運用で始まっている。これではカバーしきれない。事故後は原子力事故に関する法律を作ってほしい。
  • 仮設住宅は災害救助法が適用され、次に行くところ探さなければならない。原子力事故災害は人体への影響も大きく、事故処理には長時間かかる。仮設では長く続くコミュニティは作れない。チェルノブイリは30km圏外に恒久住宅として5階建てのコンクリート住宅つくった。仮設でいいのか!
  • けんちゃんのお母さんは難病患者。遠くへ避難することはできない。難病、身障者、人工呼吸器使用者、透析患者等の避難弱者のために、当時者が気後れしない避難所がほしい。
  • 大型犬を飼っていたが避難所に入れず、避難した知人の家に住んだ。周りに人はいない、お店はない。自治体の人が回ってきて初めておにぎりを口にした。個人避難者への支援の充実を。放射能危険区域で通行止めになり、水やえさやりに帰宅できず大型犬が6,000頭死んだ。大型犬とともに暮らせる避難所がほしい。仮設では大型犬が飼えないため、里親支援もほしい。

菊池さんは、東大地震研作成地図で、M3以上の地震多発地帯に福島はあること、原子力発電所の現状を示され、今後注視する原発を述べられた。(当セミナー後の8月24日、岸田首相が原発政策を突如転換したことが報じられた。)


シンポジウム「気候危機、エネルギー危機、戦争の危機の時代へ 原発ではなく、地域からの自然エネルギーこそが回答

◆パネリスト:芦原康江氏(元松江市議)千葉親子氏(甲状腺がん支援グループ・あじさいの会事務局長)

コーディネーター兼コメンテーター: 飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)

 原子力問題の根幹には放射能問題がある。原子力を推進する人たちは放射能の影響を軽視し、できればなかったことにしたいと思っている。

飯田氏は、「チェルノブイリ原発事故の時も、放射能影響はできるだけなかったことにする国際世論形成された。福島も注意するようにと、スエーデンの元エネルギー庁の長官から警告を受けたが、日本では今、チェルノブイリよりもひどい放射能の軽視論が流布している」と指摘された。  

 千葉氏のお話で、問題の本質を共有し、その後それでも原発再稼働しようとしている島根原発のお話を芦原氏から伺った。

 

 

「福島の小児甲状腺がんの現状と課題」(あじさいの会事務局長 千葉親子氏)

 今、福島県では、甲状腺・被爆・避難という言葉は復興の妨げになるとして口に出せない。今、浜通りでは、様々なドラマが作られるような苦しみ、悲しみが続いている。福島県は復興に力を入れてきたが、その陰に何があったのか。汚染水の海洋放出については福島県の自治体議会の7割が反対を議決した。しかし、県と立地2町村が了解し県は着工した。原発誘致も議会は満場一致が基本になっている。最初に賛同してしまうのは首長、次に議会。議会の役割は大きい。議員の勉強、積み重ね、地域との連携が国造りの大きな礎になる。

 2016年に甲状腺がんの子を持つ家族との出会いがあった。放射線の影響が人々を分断する。2011年10月から18歳未満38万人に甲状腺検査の先行検査を開始した。現在5巡目に入っている。2016年3月の甲状腺評価部会中間の取りまとめは、「福島県で発見される甲状腺がんは被爆の影響とは考えにくい」と発表し、現在も覆されることなく続いている。今年1月27日6人の若者が、裁判に立ち上がった。嘘、隠蔽、データ改竄に不信を募らせてきたことが若者の背中を押したことは言うまでもない。甲状腺がんの宣告を受けた時「原発とは関係ないから」と医師に言われ、県民健康調査では「スクリーニング検査で見つけなくてもいいがんを見つけている」「過剰診断だ」と言われ、「復興に影響が出る」と風評加害者扱いにされている。

 1月27日に欧州委員会議長に宛てた、元首相5人による書簡の中に「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」という記述があることに、福島県知事は「このようなことを言われるのは遺憾である」とコメントした。7月には国連科学委員会が2020・2021年報告書の説明に来日し「甲状腺がんを含めたあらゆるがんは、増えていないし、今後も増えない。あらゆる遺伝子影響、つまり次世代への影響も起きていなし、今後も増えない」と結論づけた。50年前の資料を基に日本が作成したデータを用いている。現状とかけ離れた理由に驚き、患者ともに国連科学委員会の事務局に提言書を直訴した。原発事故に関わる多くのことが、この報告書を基に「世界は、福島県は大丈夫と言っているではないか」という理不尽な方向に進んでいく。「なぜ私が甲状腺がんになったのか知りたいです」という素朴な問いかけに、司法はどのような判断をするのか見守り、勇気と決意をもって裁判に臨んでいる若者たちへのご支援をお願したい。

 

「避難計画」は住民を守らない!だから原発を選ばない(元松江市議会議員 芦原康江氏)

 島根原発は第1号機から3号機があり、1号機は2015年廃炉、2号機は2021年新規制基準に合格し、30Km圏内全ての自治体が再稼働に同意、2022年知事が最終的に再稼働容認を発表。再稼働を巡って攻防が続いている。3号機は新規制基準適合性審査である。

 2号機の新規制基準合格は、審査自体が自然災害を的確に評価しないまま「許可」となっている。この間、中国電力、規制委員会、エネルギー庁、内閣府、自治体が説明会を開くが、「審査によって島根原発の再稼働に求められる安全性を確認した」ことを前提に説明をしており、再稼働によるリスクについては、何一つ説明することはなかった。自治体も議会も説明を聞くが、リスクが大きいことを専門家に聞く機会を同時に設け、住民と議論し、答えを見つけだしていく。その機会がなければ公平な説明会と言えない。住民の質問や問題を指摘する声には「臨機応変に対応する」など曖昧で、住民の不信と不安は解消されることはなかった。

 原発事故時の避難対象者は、原発から30km圏内の住民約46万人。全国の原発立地点の中で3番目に多い人口で、全国で唯一県庁所在地に立地する。避難に支援が必要な障害者や高齢者は48,245人(島根県内)で全国最多である。「広域避難計画」作成は自治体に丸投げ、内閣府は自ら一度も足を運んでいない。住民の意志や意見を反映する仕組みも一切ない。

 放射能が拡散する地域から順次避難を行うという段階的避難は無理。住民は一刻も早く逃げたい。施設入居者や入院患者は受け入れ先が決まるまで屋内退去。調整に時間がかかる。避難に必要な6000台のバスを中国5県のバス会社等と協定を結んだが、運転手は年間1mSv以下の線量でなければ勤務命令は出せない。耐震不足の橋も500近く存在する。津波や火山噴火時は避難できない。避難途中で車両の放射線量計測を受けるが、汚染を知らずに避難先へ向かうことは放射性物質を避難先へ拡散させることになる。避難に支援が必要な高齢者などの「個別支援計画」ができていない。避難後の生活再建策はまだない。

 昨年12月から今年1月にかけ住民投票を求めて署名活動を展開した。しかし、市長と議会によって「住民投票」は拒絶された。ウクライナの原発がロシアによって占拠されたことに関して、その対策は「事実上無理だ」と規制委が言う中、島根県は「自衛隊が守る」「武力攻撃が想定される場合には、原発を停止する」といった国の方針に納得し、島根県知事は再稼働容認の最終判断を示した。なぜ、急いで再稼働を決めたのか、その陰には、参議院選の争点にしたくない島根選出の国会議員に再稼働を迫られていたとも言われている。

 中国電力は、2030年を見据えた電力需要の見直しと経営方針を「エネルギアチェンジ2030」に掲げ、ますます多角経営に走ろうとしている。出力制御のできない原子力に頼れば頼るほどリスクは増し、硬直した供給体制になる。私たちは省エネと自然エネルギーでもっと安心して暮らしたい!私たちは原発を止める!(田)