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2022連続講座「司法におけるジェンダー平等がなぜ重要なのか?」石田京子さん(早稲田大学大学院法務研究科教授)

司法界のジェンダー平等は、グローバルな課題になっている。例えば、ジェンダー平等に関するOECD(経済協力開発機構)報告書(2018年)では、司法へのアクセスにおけるジェンダー平等が指摘されている。

日本国憲法に定められた三権分立は、司法を「少数者の保護」「憲法の番人」として位置づける。法制度に対するジェンダーの視点は、当然とされるルールは誰が作っているのか、そのルールによって苦しんでいる人はいないだろうかという「批判」の視点を持つことを意味する。

司法改革の頃から、ようやく法曹の女性比率が意識されるようになった。増えてはいるものの、裁判官27%、検察官26%、弁護士19%、司法書士18%に過ぎない(2020年現在)。

「第三次男女共同参画社会基本計画」は、2020年までに司法試験合格者の女性比率30%という数値目標を掲げたが、達成できなかった。

ふたつの社会的カテゴリー(白人と黒人)の人々が構成する集団の割合パターンに関するカンター理論は、性別の比率を検討する際にも参考になる。① 男性ばかりの〈同一集団〉では女性が影響力を及ぼせない。②女性がごく少数の〈偏在集団〉なら、「象徴」として可視化、分極化、同一化されてしまい、多数派の男性に影響しない。③35%程度の〈傾斜集団〉においては、「象徴」から連帯可能な少数派になる。そして、④半々の〈均衡集団〉が想定される。

すなわち、司法界に限らず、男性ばかりの構成員で多様性に欠けると、偏った判断になりやすく、女性がアクセスしにくいという問題に繋がる。とりわけ、司法の場合、「法の番人」が偏見を持っていることの危険性や、最後の手段として司法に救済を求めた当事者が、さらなる人権侵害を被る可能性がある。のみならず、判決によって偏見が再生産され、法と法制度に対する尊敬を失って、司法の機能不全に繋がりかねない。

「民事訴訟利用者調査」(2016年)によれば、裁判結果の満足度について性差はなかったが、女性の再利用意欲(同じ問題がおきたら、裁判所を利用するかどうか)は男性よりも低い。司法の「男性性」に対する疎外感なのだろうか。

司法界の女性比率が高い諸外国では、収入や地位の性別格差が課題となっているが、日本については、そもそも女性が少ないという数の問題の方が大きい。

現行憲法の下で内閣が指名した最高裁判事は189名に上るが、これまで女性はわずか8名に過ぎない。最高裁のみの違憲立法審査権は大法廷(15名)で扱われるが、通常は小法廷(5名ずづ)なので、カンター理論に従えば、女性裁判官が影響力ある少数派となるためには、各小法廷に女性2名、すなわち、最高裁には常時6名の女性判事が必要となる。

男性支配の領域である日本の司法におけるジェンダー平等の促進は、司法の信頼と法の支配の実質化のために不可欠であり、喫緊の課題である。(眞)



【イベント詳細】2022連続講座「“政治”を揺り動かす」第8回

講師

2023年1月14日(土)13:30〜15:30

「司法におけるジェンダー平等がなぜ重要なのか?」

石田京子さん(早稲田大学大学院法務研究科教授)

形式

オンライン(zoomウェビナー)

参加費

1,100円(税込)

定員 50名(要予約)

【講師メッセージ】司法(裁判所)は、国会、内閣と共に国の基盤であると共に、多数決原理では救えない少数者の権利を保護する権能を有しています。司法に携わる法律専門家は、司法を通じた権利の実現に特別な責任を負っています。では、裁判官、検察官、弁護士のうち、女性が3割に満たない現状はどのような問題をもたらしているでしょうか。司法におけるジェンダー平等がなぜ重要なのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

【プロフィール】州立ワシントン大学博士課程修了。早稲田大学比較法研究所助手、早稲田大学大学院法務研究科助教、同研究科准教授を経て、2020年より現職。研究分野は法専門職倫理、司法に関する実証研究、ジェンダー法研究。