指宿昭一さんは弁護士としてこれまで入管や外国人労働者の問題に取り組み、現在、スリランカの ウィシュマ・サンダマリさん遺族側弁護、入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合代表などを務めている。
本講座では、初めに2021年3月名古屋入管でのサンダマリさん死亡事件を取り上げた。2020年不法残留で収容されたサンダマリさんは、帰国するとかつての同居男性から被害を受ける恐れがあり日本在留を希望した。指宿さんは収容から死亡に至るまで事件の経緯を辿り、次の問いをあげて説明した。1.何が問題か−−①なぜ点滴を打たなかったのか、②なぜ仮放免をしなかったのか、③なぜ入管は情報を公開しないのか。2.なぜ、このようなことが起こるのか−−①なぜ送還を拒否する外国人がいるのか、②入管はどうやって送還を受け入れさせるのか、③なぜ入管内でまともな医療が行われないのか。
開示請求によってサンダマリさん生前の入管監視映像をようやく入手した。映像を見た指宿さんがその様子について語ったことも「“なぜ”このようなことが?」(体重は2020年8月収容時から21.5kg減)と思わせるものだった(のちに4月5日弁護団がビデオの一部を報道陣に公開)。この問題の背後には戦後の入管体制と民族差別・人権侵害の歴史があった。
国・入管側からは問題「解決」方針が示され、2021年2月入管法改悪法案が提出された(難民申請を2回までに限定、難民申請者の強制送還を可能に)。これに反対して若者たちも立ち上がり、5月事実上の廃案になった。ところが、2023年通常国会に再提出され、審議へと進んでいる。
講演の後半では、外国人労働者問題−−技能実習制度の歴史と現在の状況について語った。技能実習制度の構造的な問題は、虚偽の目的(技術移転を通じた国際貢献、移動の自由がない)、中間搾取と人権侵害(多額の渡航前費用など)にある。現在、日本には300万人弱の外国人が在留し、そのうち約200万人近くが労働者である。外国人労働者に対して管理と排除でなく、多文化多民族共生を受け入れる必要がある。最後に、スイスの作家マックス・フリッシュの言葉「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」を紹介し、これが人権問題であることを強調した。
時間の関係で講演は前半部分が中心となった。その制約の中でも、指宿さんは入管・外国人労働者問題を、歴史も遡りながら明確かつ具体的で分かりやすく話された。現在、この問題は入管法改悪も含めて進行中である。私たちが「移民」問題についてどのように考えて動くのか、大きな示唆を与えられたと思う。
参考文献:指宿昭一『使い捨て外国人〜人権なき移民国家、日本〜』など。(金子幸)
【イベント詳細】2022連続講座「“政治”を揺り動かす」第10回
講師 |
2023年3月11日(土)13:30〜15:30 「入管問題と外国人労働者問題」 指宿昭一さん(弁護士、入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合代表) |
形式 |
オンライン(zoomウェビナー) |
参加費 |
1,100円(税込) |
定員 | 50名(要予約) |
【講師メッセージ】日本は、約300万人の外国籍市民が暮らす移民社会となっていますが、外国人の命と人権はないがしろにされています。何らかの事情で在留資格を失った非正規滞在者の中には、帰るに帰れない人々がいますが、入管はこういう人たちを、強制送還するために強硬方針を取り、そのために収容中に亡くなった方がたくさんいます。技能実習生などの外国人労働者も人権侵害と中間搾取を受けて苦しんでいますが、いまだにこの制度が続いています。これらの問題とその背景について、一緒に考えたいと思います。
【プロフィール】弁護士、入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合代表、入管を変える!弁護士ネットワーク共同代表、外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表、外国人労働者弁護団代表、日本労働弁護団常任幹事。1985年筑波大学比較文化学類卒業。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。著書として「使い捨て外国人~人権なき移民国家、日本~」(朝陽会、2020年)。