外国人の定住を認めない日本
現在の日本には400万人以上もの外国移住者や外国ルーツを持つ人々が暮らしているが、「外国人」への人権侵害が横行する。朝鮮から強制連行され、戦後、帰国せずに日本に残った人々への差別は変わらず、1980年代半ば以降に急増したアジア諸国からの出稼ぎ労働者たちは使い捨てられ、90年代にはブラジルなど南米の日系人の就労が合法化された。
さらに、途上国への技能移転を建前とする制度がなし崩しに拡大され、2000年代以降、技能実習生が40万人にも達した。厳しい制約を受ける技能実習は「強制労働」だとの内外からの批判も強く、ようやく制度見直しの議論が進行中である。
日本の少子高齢化により「外国人材」の必要が叫ばれても、短期滞在を前提とする循環策は、非正規滞在者(「不法滞在者」と呼ばれる)への締め付けと出身国への送還方針を徹底する管理で一貫する。
移住女性の状況
1980年前後から、性産業に働くアジア諸国の女性も増えた。観光・興行ビザで入国後、オーバーステイ状態でホステスや売春などを強要される。ブローカーが介在して架空の借金を背負わされるなど、まさに「人身取引」の被害者である。国際的な非難を浴びて、日本政府は国連条約・議定書に署名したものの、法律上の措置はまだない。
80年代以降、農村部での「嫁不足」から、行政が率先して外国人「花嫁」の斡旋に動き、フィリピン、スリランカなどの女性たちが日本の農村へ移住した。90年代には、都市部で観光・興行ビザで来日した女性たちが日本人男性と同居、正式な婚姻ではなくオーバーステイでも、子どもが生まれ育つなど、日本に定住する外国人女性も少なくない。
家族ぐるみで移住する南米の日系人女性たちは、製造業の下請け工場などで働く。彼女たちの就労実態は、日本人女性の差別的な待遇をさらに凝縮したものだ。外国人女性の仕事は、弁当製造、クリーニング、ホテルの清掃などに偏る。2010年代以降は、介護や家事労働などのケア職で受け入れが進んだ。
技能実習生は妊娠すると、帰国させられるため、あるベトナム人女性は、誰にも相談できずにひとりで死産した双子の赤ちゃんの死体遺棄罪で逮捕、起訴された。最高裁で無罪判決となったが、外国人差別と女性差別の象徴的な事件といえる。
国際結婚などによって定住した女性について、国の施策はほとんどなく、労働や医療・福祉分野における移住女性への視点は欠如したままである。
今後の課題としては、技能実習制度を根本的に見直し、人種差別撤廃基本法と外国人人権基本法に加えて、国際結婚した女性の権利や定住化支援についての法律が必要である。
移住女性のエンパワメント
2002年から神奈川県下で始まった「カラカサン」の活動は、移住女性とその子どもが、差別や暴力、貧困に晒されず、尊厳をもって平等に生きられる社会づくりを目指す。こうした活動は、支援を受ける移住女性としての立場から、自らが移住女性の権利向上のための提言活動への参加、日本人女性の活動との連携へと発展している。
入管法改定への反対
2023年6月に成立した入管法改定法では、難民申請者を強制送還できる。在留資格のない外国人に対して、司法審査を経ずに無期限・長期に入管施設に収容できるという入管法の規定自体が、そもそも人権蹂躙に当たる。
日本がなすべきことは、今回の入管法改定に体現された外国人の管理と排除ではなく、移住連が「移民社会20の提案」にまとめたような、地域社会や職場で共生していくための包括的移民政策である。(眞)
【イベント詳細】2023連続講座「“政治”を揺り動かすⅡ―次世代へ希望のバトンをつなぐ」第5回
講師 |
2023年10月14日(土)13:30〜15:30 「外国人移住者と地域社会―移住女性の視点から」 山岸素子さん(NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長) |
形式 |
オンライン(zoomウェビナー) |
参加費 |
1,100円(税込) |
定員 | 50名(要予約) |
【講師メッセージ】日本にはすでに400万人を超える外国にルーツを持つ人々が暮らしています。そのうちのおよそ半数は女性ですが、移住女性は、外国籍であること女性であることの複合的な差別や暴力に苦しんできました。一方で、地域で暮らす移住女性たちの権利と尊厳の回復を求める運動が、政策に変化をもたらしてきた側面もあります。日本に暮らす移住女性の現状と課題、権利を求める取り組みについてお話しします。
【プロフィール】NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長、カラカサン~移住女性のためのエンパワメントセンター共同代表、立教大学・明治学院大学非常勤講師などを兼任。長年にわたり、地域での移住女性と子どもの支援、移住女性を中心とした調査・アドボカシー政策提言活動などにかかわる。