2013年設立のNPO法人ピルコン(Program for Ideal Life Communication & Networking)は、「誰もが自分らしく生き、性の健康と権利を実現できる社会」をビジョンとして、「性の健康と権利について誰もが気軽に学べる、語り合える、相談でき、支援につながれる環境の実現」をミッションとする。SNSによる発信を活用しながら、中学・高校生向けのプログラム(ピア・エデュケーション)をはじめ、保護者やPTA向けの講演、政策提言、人材育成、教材作成や情報発信、自助グループ運営や相談支援などの活動を行なっている。
日本における性教育の変遷
1950〜60年代は「純潔教育」だが、他方で公娼制度は残っていた。70〜90年代には性教育ブームがみられ、92年は学習指導要領の改訂もあって「性教育元年」と呼ばれる。しかし、2000年代以降は、旧統一教会の政治家への働きかけもあって、性教育バッシングが著しかった。
ようやく2021年、文科省が性犯罪・性暴力対策として「生命(いのち)の安全教育」を掲げたが、リスクを強調する禁止メッセージが中心であり、決して性教育とは言わない。自己決定や「同意」の重要性には触れず、性の多様性やジェンダー平等の視点を欠く。
ネット上に性情報が氾濫しながら、性教育が乏しいために、様々な問題が生じている。日本の年間人工妊娠中絶件数は約13万件、うち10代は約9000件に上る。若者の間に性感染症が広がり(梅毒の急増)、若者の4人に1人は性暴力被害を経験する。
世界で広がる包括的性教育
国際的にみて日本の性教育は極めて立ち遅れている。学習指導要領に基づき、中学校ではわずか年3時間程度、しかも、性交や妊娠についての内容を制限する「はどめ規定」まで存在する。しかし、ユネスコによるガイダンスなど国際的なスタンダードは、生物や健康の科目を中心にカリキュラム化され、5歳から発達段階に応じて、時間をかけて(年12〜20時間)、幅広く、繰り返し、より深く学ぶものになっている。
世界で広がる包括的性教育は、より豊かな人生にするために、知識だけではなく、セクシュアリティの認知的、感情的、身体的、社会的側面についてのカリキュラムをベースとした教育と学習のプロセスであり、人権・ジェンダー平等に基づいて、互いを尊重し、よりよい人間関係を築くことを目指す教育である。その背景には、国際人口開発会議(1994年)において確認された「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)」、さらに、性の健康世界学会(WAS)による宣言「SRHR+Pleasure(快楽)」(2019年)がある。
日本では、緊急避妊薬へのアクセスの改善も必須である。認可されても、高額な上に、薬局では入手できず、入院を条件とするからである。これは女性の政治的発言権の問題に直結する。避妊の選択肢が限られ、若者が避妊方法に不安を感じても大人に相談しにくい状況も変えていかなければならない。責任を押し付けあうのではなく、子どもを守る「知識」と「連携」を広げたい。(眞)
【イベント詳細】2023連続講座「“政治”を揺り動かすⅡ―次世代へ希望のバトンをつなぐ」第6回
講師 |
2023年11月11日(土)13:30〜15:30 「包括的性教育―国際的な潮流と日本における展望―」 染矢明日香さん(NPO法人ピルコン理事長) |
形式 |
オンライン(zoomウェビナー) |
参加費 |
1,100円(税込) |
定員 | 50名(要予約) |
【講師メッセージ】包括的性教育は、性を生殖・性交のことだけでなく、人権教育を基盤に人間関係を含む幅広い内容を体系的に学ぶ教育です。科学的な根拠と人権尊重に基づき、子ども・若者たちをエンパワーするものとして広がってきました。今回、国際的な包括的性教育のガイドライン「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」をご紹介しながら、日本における性教育や性についての課題、また包括的性教育を日本で広げていく展望について皆さんと考えていきたいと思います。
【プロフィール】中高生や保護者、教育関係者向けの性教育講座や情報発信、政策提言の活動を行う。公認心理師、思春期保健相談士。著書に『マンガでわかる オトコの子の「性」』(合同出版、2015年)、『はじめてまなぶ こころ・からだ・性のだいじ ここからかるた』(合同出版、2022年)。