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2023連続講座「子どもが権利の主体として活躍する社会に ―こども基本法とこども家庭庁を活かす」甲斐田万智子さん(文京学院大学教授・NPO法人国際子ども権利センター代表)

「国際子ども権利センター(シーライツ)」(1992年設立)は、「すべての子どもがあらゆる暴力から守られ、子どもの権利、特に参加の権利を実現していく社会」をビジョンに掲げ、子どもの権利普及事業活動を開催している。

 

子どもの権利を教えない日本

 1989年に採択された国連子どもの権利条約は、子どもは指導の対象ではなく、ひとりの人間として尊重されるべき“権利の主体”であること、子どもは未来ではなく「今」の“社会の担い手”として発言・参加するのが当然だとする。日本が批准したのは94年と遅く、批准後も「権利の前に、まず義務を果たせ」という考え方が根強い。子どもの権利を認めないのは「子ども差別」である。日本社会では、子どもの自己肯定感や幸福度が低く、ユニセフの調査(2020年)によれば、幸福度は38カ国中20位、精神的幸福度はワースト2位の37位だ。

 

こども基本法

2022年に子ども基本法が制定され、施行(23年4月)と同時に、こども家庭庁が発足した。同庁の任務として「こどもの権利利益の擁護に関する事務」が掲げられ、子どもの意見の尊重の原則と子どもの最善の利益の原則が基本として位置づけられた。

 こども基本法は、こども施策を条約の精神に則って進めていくことを明記する(1条)。条約に掲げられた4つの一般原則、① 差別の禁止、② 生命・生存・発達に対する権利、③子どもの意見の尊重(聴かれる権利)、④ 子どもの最善の利益、が基本理念に記され(3条)、子どもの意見表明・参加を推進する必要性が確認された。また、地方公共団体の責務も定めている。

 2023年4月、こども家庭庁長官から各都道府県知事・政令指定都市市長に対し、「こども基本法の施行について」が通知された。各自治体は「子ども・子育て支援事業計画」を「こども計画」に新たにつくりかえることになるため、子どもの声を反映させるような市民からの働きかけが肝要だ。日本政府も実行の責任を負い、国連子どもの権利委員会に報告書を提出するとともに、委員会からの勧告に基づいて改善する義務もある。

 

子どもの声を聴く必要

 こども基本法によって、子どもの声を聴くことが義務とされた意義は大きい。声を聴く必要性として①子どもは1人の人間だから、②子どもが生きていくために必要だから、③子どもが当事者である問題については、子どもが一番よくわかっているから、④コミュニケーション力がつき、仲間が増え、孤立しないようになるから、⑤自己肯定感が高まり、自分の人生を自由に選べるようになるから、⑥子どもがエンパワーされ、行動する責任意識をもつ市民となるから、⑦民主的な社会をつくることになるから、⑧おとなにとっても子どもの声は必要だから、⑨子どもの声は人びとの心を動かし、社会を変える力を持っているから、⑩対話で解決するようになり、すべての人の人権が守られるようになるから、と10個の理由が挙げられる。(東)



【イベント詳細】2023連続講座「“政治”を揺り動かすⅡ―次世代へ希望のバトンをつなぐ」第8回

講師

2024年3月9日(土)13:30〜15:30

「子どもが権利の主体として活躍する社会に―こども基本法とこども家庭庁を活かす」

甲斐田万智子さん(文京学院大学教授・NPO法人国際子ども権利センター代表)

形式

オンライン(zoomウェビナー)

参加費

1,100円(税込)

定員 50名(要予約)

【講師メッセージ】日本は1994年に国連子どもの権利条約を批准していながら、子どもを権利の主体として認めてきませんでした。その結果、子どもの声を無視したまま、子どもが直面する問題―児童虐待、体罰、いじめ、性暴力などーは深刻化しました。2023年4月に子ども基本法が制定され、社会で子どもの声を聞いていくことが定められました。法律をもとに子どもがSOSを発し、おとなと共に問題解決していけるようにするにはどうしたらいいか考えます。

【プロフィール】認定NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)代表理事。文京学院大学教授。広げよう!子どもの権利条約キャンペーン共同代表。子どもの権利条約総合研究所運営委員。監修『きみがきみらしく生きるための 子どもの権利』(KADOKAWA、2023年)