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「市川房枝と婦選のメッセージ ―― 婦選獲得同盟100周年を迎えて」 講師:進藤久美子(東洋英和女学院大学名誉教授)

婦選獲得同盟設立の流れ

 第一次大戦後の欧米諸国で次々に男女平等の参政権が達成された当時、日本では治安警察法5条で女性たちの政治的活動は一切禁止されていた。1919年末に平塚らいてうと市川房枝が立ち上げた新婦人協会の運動の結果、23年に治警法5条第2項が改正され女性たちの政治集会が認められると、女性参政権を求める動きが一挙に高まった。1924年末、強力な婦選の圧力団体を組織するため個々に活動していた婦選団体と個人の婦選運動家が大同団結し婦選獲得同盟を結成、本格的な女性参政権運動が始動した。

 

婦選3法案の議会提出と運動の戦略

翌1925年に同同盟は、女性の結社権、地方自治体の政治に参画するための公民権、衆院選(国政)に参加するための参政権を求める婦選3法案を、男子普通選挙法が成立した第50議会に提出した。市川は、婦選をすべての階層の女性たちの参加する全国的運動とするため左右両翼の婦選支持の女性団体を連携し婦選獲得共同委員会を組織、広範な対議会圧力活動を展開した。その結果、「普選の次は婦選」を支持する世論を背景に30年5月、第58議会、31年2月に59議会で女性の結社権と公民権法案が衆議院を通過した。

 

婦選運動の特殊日本的な展開と今日的意義

 しかし1931年9月の満州事変は婦選支持の議会趨勢を一挙に反転させ、以後、15年戦争の続く社会で婦選3法案の議会提出は困難となった。婦選獲得同盟は戦時下で「婦選の灯」を燈し続けるため、28年の第4回、30年の第6回総会で設定した、男尊女卑のイエ社会で説得力を持つ4つの婦選の意義と目的を婦選の新たな活動争点に据え、欧米の参政権運動とは異なる、婦選運動に固有な市民的活動を切り拓いていった。

まず政治を「清浄公正なる国民の政治とする」婦選の第一の目的に沿って、男性の行う普通選挙を婦選の立場から監視し、「十銭袋」や「市民は選ぶな 醜類を!」などの反金権選挙の手法を編み出した。さらに第二の「政治を台所に結びつける」目的に沿って、東京市のごみ処理や卸売市場の問題を取り上げ、女中税・小市民税値下げ運動など生活関連の市民活動を開拓した。1937年には、「女・子どもに不利な法律の改廃」するため、母子保護法を成立させた。15年戦争の上半期婦選獲得同盟は、議会の会期毎に全日本婦選大会を開催し、「世界の平和を確保する」婦選の第4の目的に即して、反戦・反軍拡・反ファッショの女性たちの意思を決議し続けた。

 こうした反戦・反金権選挙さらに政治を生活につなげる一連の婦選の取り組みは、戦後女性たちが参政権を手にしたとき、女性の政治的取り組みの起点となった。戦後市川は、「政治は生活」を旗印に、「平和・人権・クリーンポリテックスの護持」を女性が望む政治として自らの政治目標に据え、四半世紀に及ぶ参議院議員活動を展開した。(進藤久美子)



【イベント詳細】市川房枝と婦選のメッセージ ~ 婦選獲得同盟100周年を迎えて

日時 2024年7月2日(火)14:00~16:00〈13:30開場〉
会場

婦選会館(東京都渋谷区代々木2-2-11/新宿駅徒歩7分)

・オンライン(Zoom)

参加費・定員

・会場参加 1,650円(定員約40名)

・オンライン 1,100円(定員約100名)

※会場参加の場合、当日会場払いが可能です

講演

進藤久美子氏(東洋英和女学院大学名誉教授)

司会

国広陽子氏(武蔵大学名誉教授、当財団理事)